フットハットがゆく【167】「自問す」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【167】「自問す」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年10月16日号の掲載記事です。

自問す

先日両親と車に乗っていた時にふっと気づいたことがある。
2人とも何かを数える癖があって、母親はビルの階数を数えるのが好きみたいだ。
「8…9…10…」と、ブツブツつぶやいているかと思うと、「15階建てやわぁ」と一人で感心したようにうなずいているのである。

父親は電車の車両数を数えるのが好きである。
踏切待ちでゴーッと通り過ぎた電車を見て、ぼそっと「7両編成や」などとつぶやくのである。
駅を通過した特急列車を見て、「8両やったな…」となぜか嬉しそうにいったりする。
そういわれても僕は「へ~そう…」としかいいようがない。
父はべつに鉄道関係者でも鉄道ファンでもないのに、なぜ連結車両を数えたがるのだろう?
まぁどうでもいいか。

でも、先日非常に暇だった時に、改めて父の癖について考えてみた。
こういうものは、幼少期の影響が強いと考える。
昔聞いた話だが、父親こと少年塩見は、おもちゃを買ってもらえなかったので、マッチの空き箱を電車にみたてて遊んでいたらしい。
畳の端っこの黒いところを線路がわりにして、そこにマッチ箱を沿わせてガタンゴトンといって遊んでいたそうだ。

ここまでが聞いた話で、ここからは僕の想像の話になる…。
でも、マッチ箱を電車と想像するのは、なにか不自然な気がする。
どちらかというと、バスとかトラックとか、車の方が近い形である…。
なぜマッチ箱が電車なのか…?
これは彼の出身地を考えればすぐに答えが出る。
京都は東山、今出川通。
そう、そこには昔、今は無き市電が走っていたのだ。
家から歩いて数十秒の今出川通、その路面を走るチンチン電車は必ず1両走行であった。
少年塩見にとって電車とは市電であり、市電とは1両で走るものであり、それが電車というものの全てだったのである。
だからマッチ箱で完璧OKだったのである。

ところが、市電だけを見て育った彼が、大きく概念を変える日が来た。
家族で旅行に出かけるため京都駅までいったところ、生まれて初めて国鉄というものを見たのである。
なんとなんと、市電よりも大きな車両が7つも8つも連なっているではないか~ッ!!!
信じられないような光景に、少年の心は踊りまくった。
旅行から帰るとさっそく母親に、マッチの空箱をねだった。
それをテープで貼って、何両にもつなげたかったのだ。
しかし、マッチの空箱というのはマッチを使い切らないと出来ないわけで、「まだマッチが入っているから、使ったらあきません!」と母親に叱られつつ、何日も何日もかけて、1両、また1両と車両を増やし、ついに国鉄で見た8両編成が完成した時のあの感動、あの興奮!
連なったマッチ箱を畳のへりにズリズリとこすり走らせながら、少年塩見は爛々と瞳を輝かせた…。

ということで、父はいまだに無意識に車両数を数えてしまうと思うのだが、どうだろう?
まぁどうでもいいか。
というか、こんな暇なことを考えていて、僕は他にすることがなかったのかと自問してみるが、…まぁ、なかったのである。

ジーメンス 1816~1882 ドイツの電気技術者、発明家。電気機関車を発明する。

ジーメンス 1816~1882 ドイツの電気技術者、発明家。電気機関車を発明する。

 

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