エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【168】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【168】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2006年1月16日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

全国展開をしている、大型の新刊書店の部長さんと話をする機会があった。
バイタリティ溢れるその方は、これまでに様々なイベントに携わってきたという。その中で、私が特におもしろいと思ったのが古本に関するものだ。
ひとつは、京都の書店組合が中心になって行なった古本の交換イベント。事前に一般の人々から古本を募集するのだが、窓口が組合加盟の新刊書店の店頭というのがユニーク。お客さんが持ち込んだ古本一冊につき交換券一枚がもらえる。そして、イベント期間中に会場で一枚につき一冊、集まった大量の古本の中から好きなものを選んで持ち帰れるというもの。
商売抜き。一対一交換というのが何とも嬉しい「お祭り」であった。十年以上前に一度開催されたきりだが、私も楽しんで参加したのを憶えている。書店の店頭に持ち込まれた古本の集荷には取次会社の協力で新刊配本ルート便を利用したというから驚く。

もう一つが、阪神淡路の震災直後にその部長さんが勤務する書店が行なったボランティア活動。その書店が全国から古本の寄付を募り、整理し、被災者に無償で配るというもの。
心身共に傷つき、衣食住にさえ不自由しているときに、活字は必要か。いや、そんなときこそ、娯楽の読み物やマンガは気晴らしになり、文学は心の支えになったに違いない。

どちらも、活字文化の大切さを改めて認識させられる素敵なイベントや活動だと思うが、商売としては新刊を売るのが仕事なのに、わざわざ時間と手間をかけて古本を扱うというのは、いったいどういうわけか。そう、問うてみた。
すると彼はこう言った。「本を動かす」ためだと。本を読む人の家には本があふれている。本棚にはもう新しい本が入る隙間などまったくない。だから、新刊を買ってもらうには、まず本を置くスペースを空ける必要があるのだ、と。
なるほど、本を売るためには、その前に家から古本を追い出す必要がある――か。それならいっそ、新刊書店が古本の買取事業を始めるというのもおもしろいかもしれない。「下取りします」「買取強化月間」なんて。これじゃまるで、家電か自動車販売だな。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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