エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【299】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2013年3月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
電車に乗っていて、近ごろ気になることがある。
対面する座席で、スマートフォンやケータイを顔の前に上げて操作している人がいるのだが、その裏側のカメラのレンズがまっすぐこちらに向いていることが時々あるのだ。
もちろん、可愛い娘さんならいざ知らず、私のようなおじさんの写真や動画を撮っているはずもない。
でも、ずっとこちらにレンズを向けられていると、どうも落ち着かない。
ましてや、尖閣諸島沖における日本の自衛隊巡視船じゃないけれど、中国の海洋監視船がやったように実際にロックオンされているとしたら、「コラ、何してくれてんねん」ということになる(不謹慎な喩えだったら、スミマセン)。
現実に、スマホを操作しているフリをして、電車内で超ミニの制服スカートの女子高生を盗撮する不届き者(というか、条例違反の容疑者)が増殖していて社会問題になっている。
シャッター音がならないカメラ・アプリや、脱獄(改変OS)スマホも出回っているという。
それはともかく、逆に、アイパッド・ミニで電子書籍を読んでいる私は、電車内の対面する席に座っている人に「カメラのレンズが自分に向けられているのではないか」という不安を与えないよう、常に、手に持つ角度にはずいぶんと気を使っている。
そういう意味では、電子書籍を読むのが目的でアイパッド・ミニを購入し、カメラ機能をまったく使わない私にとって、本体裏側にレンズが付いているのは、むしろいらぬ神経を使わせられる欠点だと言える。
もちろん、スマホやタブレットにとって、レンズは「目」であり、無くてはならないパーツであるのは言うまでもない。
ただ、電車の車両という閉じられた狭い空間に、無数のカメラが散在し、そのそれぞれが、異なる角度で、銃口のようなむき出しのレンズをまっすぐ前方に向けている――そう意識したとき、自分は今、異常な環境に身を置いていると思わないではいられない。
近年、街頭や駅、ビル、店舗など、そこら中に監視カメラが増えているが、実は今、「カメラ密度」は混雑した電車内が最も高く、悪用される可能性、いや、実例も少なくないのだ。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)