エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【294】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【294】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2012年10月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

アマゾンのCEOが先月、新型キンドルの発表会で、「キンドルはガジェット(小道具)ではなくサービスだ」と言った。わが社の電子書籍端末は単なる「物」ではない、というわけだ。
各社の端末の性能やサイズ、価格などから、どのメーカーの製品がいいかを比べるといった、「物寄り」の議論になりがちな世論を背景に、今更ながら分かり切ったことをあえて確認しておく必要があるということなのだろう。
もっと言えば、アップルは本屋じゃないぞ、と。
もちろん、SONYも楽天も。さらに言うなら、日本の大手ネット書店はまだどこも電子書籍の端末を発売していないとの指摘だと読み取ることもできる。
いや、逆に言えば、アマゾンは単なる通販サイトのような、物を売るだけのサイトですらない、と。

もっとも、キンドルという黒船来襲が、欧米の人気商品の単なる上陸でないことは日本の出版関連業界が一番よく知っている。
オールジャパンでスクラムを組み、「自陣の態勢が整うまで電子書籍を日本で本格普及させないという決意」には、なみなみならぬものがあるようだ。
こんなときだけ息ピッタリというのも、なんだかなあと思う。

そう、キンドル(に象徴される電子書籍)は、流通も含め産業構造そのものをひっくり返しかねない。
日本の出版産業の市場規模は意外に小さいが(販売額でたった二兆円ほど)、川下で直接関係のある業界だけでも、印刷や取次、書店まで、裾野に広がる多くの人々の生活を左右する、当事者にとっては大問題であることには違いない。
ともかく、文化や産業には歴史的な経緯があり、国民性や、書物に対する考え方の違いがあるのだから、日本には日本のやり方があっていいのだし、短期的なメリット、デメリットの差し引きでアメリカ流というか、アマゾン式ビジネスに合わせる必要はない。
しかし、社会が求めるサービスや商品を自ら生み出すことが商売の基本であり、客の利便性よりも業界を守ることを優先し、アマゾンという敵のサービスの優位性を日本で発揮できないようにすることに必死になってもらっては困る。
日本の関連業界には、この局面を好機にして、アマゾンを抜いて変革をリードするぐらいの新しい「サービス」を提案してもらいたいものだ。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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