エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【293】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【293】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2012年9月16日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

ネットショップのレヴュー欄を私はまったく参考にしないのだが、たまに見ていると、やたら厳しく低い評価を下しているコメントや、べた誉めしているコメントを見かける。
中には、両陣営で投稿合戦をしているような商品(本よりPC周辺機器やアイデア電子雑貨などの競合商品に多い)もあったりする。
あまりにムキになっている感じなので、この人たちは利害関係者なのではないかと、断定こそできないが勝手に想像している。
もちろん、一般の購入者の率直な意見が多いだろうとは思うのだが。

あと、おもしろいのが、妙に専門的な用語や隠語的表現を駆使して、大げさな解説を開陳しているコメント。
その性能や特徴について客観的に分析、検証しているようなのだが、「どや顔」が透けて見えているというか、批評眼を自慢しているような、同類マニアの仮想ライバルと競っているようなところがある。
それらは例えば、ヘッドフォンのレビューなんかに見られるのだが、ほんまに聴き分けられてんのかいなというパターンのフレーズがちりばめられている。
などと思っていたところ、テレビの『タモリ倶楽部』で、「利きヘッドフォン」をテーマに、批評する人の用語や態度を三十分番組全編を通して茶化していた。

ところで、大阪の橋下徹市長がある日、文楽公演を観て「演出がよくない」とメディア会見の場で批評した。
数えるほどしか文楽を観たことがないという人が、である。
これはイタかった。もっとも、ネットショップのレビュー欄と比べれば、かわいいものだが。

何年か前に『3時間で「専門家」になる私の方法』という本があったが、ネットで三十分も検索すれば、いっぱしのコメントができる昨今。
もちろん、用意周到な橋下市長のことだから、昨年横浜で上演され巷で評判が高かった杉本博司(美術家)演出の『曽根崎心中』の録画を事前に取り寄せて「確認」していたのかもしれない。
その後で観る大阪の国立文楽劇場での公演をくさすために。
でも、ご多忙な橋下市長には、さらにネットで三十分も検索する時間がなかった(笑)。
あるいはブリーフィングするスタッフにも文楽をわかる者がいなかった。
いや、多くの案件を抱えた市長には、文楽問題は時間を割ける対象ではないということなのだろう。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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