エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【283】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【283】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2011年11月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

私は携帯電話を持っていない。これまで一度も。何かの折に携帯の番号を尋ねられて、そのように答えると「なぜ?」と聞かれる。
理由はない。必要なら使うし、今のところは特に……。そう、答える。
珍しいからか、興味を持ってか、相手はこの話を広げたがる。が、いつものことなので、こちらとしては続けるのが億劫なのだが、雑談におけるフリなのだろうから、失礼がないようにものの言い方や表情には気をつける。
でも、言うべきことは何もない。

それで、実は結構本音なのだが「理由というのは持っている人にあるのであって、持っていない人にはないのでは?」と、まるで屁理屈をこねているようにおどけて言ってみたりする。
「人は携帯電話を持って生まれてくるわけではない。つまり、持っていない人はそもそも何もしていない。
それをなぜって、理由を聞かれても」とか。

ところで、私も電子書籍なら、ソニーのReaderという製品が日本で発売されると、すぐに買った。
いわゆる「自炊」は、それ以前からしていた。と言っても、メディアとして完成された「紙の本」をわざわざ未熟な機器で読むために電子化しているわけではない。
「自炊」は、自宅に溢れる本を減らすために、仕方なくやっている。
既読の本を「自炊」するのが原則だが、読み終わっても処分したくない本が少なくないので、未読の本でも比較的古くなり、読んだら捨てるつもりの本は「自炊」してしまう。
未読で電子化したもののうち、文庫本を読むためにソニーのReaderを買った。
それが目的であり、理由である。ただ、とりたてて今すぐに必要だったわけではなく、単にいじってみたいというのが本当の所。
このところ誰かと世間話をしていて、たまたま電子書籍の話題になり、私がソニーの機器を買った話をすると、ほとんどの人は「やはり本は紙でなくっちゃ」と言う。
そして、物としての本への愛着、電子書籍に対する違和感を語る。
むしろ人は、「なぜそれを持たない(選ばない)のか」を他人に語りたがるものなのかもしれない。
今やほとんどの人が持っている携帯電話を持っていない私は、さぞかし強い持論の持ち主だと思われているのだろう。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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