フットハットがゆく【139】「歩く写ガール」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【139】「歩く写ガール」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年8月16日号の掲載記事です。

歩く写ガール

人は恋をしないとどんどんと老けるらしい…。
最近めっきり恋から遠ざかっている僕は、老けるのがいやなので、無理矢理にでも恋をすることにした。
と、いっても、そんじょそこらに軽く落ちていないのもまた恋である。
そこでとりあえずだが、いい方法を思いついた。
恋していた頃の自分を回想するという手段である。
忘れていたあの恋心を思い出すことが、新しい恋を見つけるパワーにも繋(つな)がるかもしれない。
ということで、高校時代のアルバムを引っ張り出してきた。

僕は高校を卒業してもう20年も経つ。
好きだったあの子の写真を見るのは何年ぶりだろうか?
シャガールの絵に出てきそうな、清楚な感じの彼女の写真をじっと見るうち、なんとなくドキドキしてきた。
忘れていた思い出も甦ってきた。
そして、彼女が一番可愛く写っている写真をアルバムから抜き出し、パソコンでスキャンした。
そしてそれを加工し、自分の携帯電話の待受け画面とした。
昔の人は、好きな子の写真を定期入れや財布に入れて持ち歩いたものだが、最近の子は携帯電話の写メールとして、待受け画面にするのである。
昔好きだった子の写真を携帯で見てニヤニヤしている自分もたいがい気持ち悪いが、毎日見ているうちにだんだん、また好きになったような気になってきた。

昔の名簿を調べて、20年ぶりに電話をかけてみようかな?
…いやいや、そんな恥ずかしい。
などと考えるとけっこうドキドキして、なんか学生の時のような気分になる。
でも、今自分が38歳ということは、相手も38歳。もうけっこういい歳、世間ではおばちゃ…いやいや、そんな失礼な。
じぶんだってビール腹のおじちゃんやん。
まぁそれはともかく、恋愛欠乏症だった僕は、写メールの少女こと『写ガール』を見ながら、青いような淡いような気持ちをなんとなく思い出していたのである。

そんなある日、僕の想いが通じたのか、偶然その写ガールを目撃してしまった。
車を運転して信号待ちの最中、目の前の横断歩道をその子が渡ってきたのである。
当然向こうは気づいていない。僕はまじまじとその子を見た。
年齢的にはおばちゃんといってもいい年なのに、なんか写ガールのイメージのままのかわいい女性であった。残念なことに、だんな風の男と、こども風のこどもを2人連れていた。
あっけにとられていた僕は、信号が変わったのに気づかず、後ろの車にクラクションを鳴らされた。

恋する彼女がすでに結婚していた(38だからあたりまえか…)のはショックだったが、横断歩道を歩く写ガールを見て、昔とあまりかわらなく可愛い雰囲気のままだったのはとても嬉しかった。
これを機にかなりテンションのあがった僕は、新たな恋を求めるべく、本格的にダイエットを始め、一時期より腹の出もましになってきた。
これぞまさに恋の成せるパワー!
「最近疲れる」とか「老けた」と自覚のある皆様、ぜひ恋をしましょう!

 

マルク・シャガール 1887〜1985 ロシア生まれの画家。代表作には青を基調としたものが多い。

マルク・シャガール 1887〜1985 ロシア生まれの画家。代表作には青を基調としたものが多い。

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