エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【271】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【271】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2010年11月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

ノーベル文学賞はバルガス・リョサに決まった。
ところが、彼の代表作であり、たまたま今年八月に出版されたばかりの岩波文庫版『緑の家』が、岩波書店のサイトでは「重版中」となっていて、ネット書店のアマゾンでも在庫がなく販売できない状態。なんと間が悪いことか。

サントリーのノンアルコールのビールテイスト飲料「オール・フリー」や米から直接パンが作れる三洋電機の「GOPAN(ゴパン)」、日清食品の「カップヌードルごはん」など、注文に生産が追いつかず、販売休止や、発売開始の延期になる商品がこのところ何故か続出している。
「品薄商法」ではないかと勘ぐる向きもあるようだが企業としてはやはり「売れる時に売りたい」のが本音で、増産体制を組んだ頃には市場の熱は冷めていて在庫の山……は避けたいのが正直なところだろう。
尖閣諸島に関する本も例の事件当初はアマゾンを始め売り切れの書店が出ていた。出版社が増刷に踏み切ったのか、ようやく関連本が出まわるようになったが、メディアでの尖閣諸島の話題が減りつつある中、どれほど売れるのだろうか。

ところで、メディアではこの間「尖閣諸島はわが国固有の領土」という政治家の発言が繰り返し流されていた。
しかし、そもそも、ある時代の、どこかの国の、「固有の領土」なんて、考え方としてあり得ないのではないか。
あると言うのなら、世界史には何が描かれていると言うのか。国すら不変ではないのに。

尖閣諸島における日本の領有権を示すのに必要なのは、中国に負けない論争力や巧みな交渉力、第三国に向けての表現力などであって、「固有の」という思考停止を決め込むための修飾語ではない。
当事国が自国の国益を主張するのは当然なのだから、「尖閣諸島はわが国の領土」だと堂々と言えばいいのだ。

今年一月発行の『国境の島が危ない!』(山本皓一、飛鳥新社)は、尖閣、与那国、対馬、竹島、南鳥島、沖ノ鳥島、択捉、国後、「日本人が行けない日本の領土」を含むこれら「国境の島」全てに上陸した報道写真家が、日本の国防を問うブックレット。
逆に、尖閣諸島は中国の領土だと論じている本では、1972年に出版された本の一部を1996年に再刊した『「尖閣」列島―釣魚諸島の史的解明』(井上清、第三書館)などがある。

 

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40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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