エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【267】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【267】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2010年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

今年も半ばを過ぎようとしているが、例の「国民読書年」はどこに行ったのやら。
「文字・活字文化振興法」の制定、施行五周年にあたる二〇一〇年を「国民読書年」に制定すると、衆参両院の全会一致で議決されたのが二〇〇八年六月。直後のリーマン・ショックやその後の政権交代などで、政も官も民もそれどころではなくなったのか、国を挙げて読書の振興に取り組んでいる(少なくとも、その気運を盛り上げる施策を勢力的に打ち出している)ようには、どうも見えない。
インターネットで調べてみると、何もやっていないわけではないようだが、読書推進キャンペーンや関連シンポジウムなど、新聞社や出版社が例年やっている以上に今年が多いとは特に言えない。
それどころか、地方交付税でまかなわれている公立小中学校の図書購入費について、二〇〇九年度に自治体が実際に予算計上したのは国が算定した額のわずか七七%だったと、先ごろ発表された。つまり、小中学校の図書購入費の二三%を目的外の使途に流用しているのだ。それで何が「国民読書年」か。

折りしも、タッチパネル式のタブレット型コンピュータ(のようなもの)iPadがアップルから今年発売された。
ネット書店のアマゾンが電子書籍端末のキンドルを先行して市場に投入していたが、これまで日本語に対応していなかったのと、電子書籍専用機だったため、日本では火がつかなかった。
しかし、皮肉にも電子書籍専用機ではないが故にiPadが普及し、他社も同様の新製品で追随すれば、日本でも電子書籍が一般的になる可能性もでてきた。

そうなると、iPodとiTunesストアの登場で音楽を聴く環境が劇的に変わったように、iPadやキンドルで、より気軽に読書が楽しめるようになるだろう。
未来を憂えるお偉い方々が発案、国会決議したお題目ではなく、たった一つの新商品がきっかけで社会が動く――二〇一〇年は「国民読書年」ではなく、「電子書籍元年」として記憶されるのかもしれない。
もっとも、紙の本を読まない人が、電子の本を読むとは思えないし、iPadをいじる分、紙の本を読んでいた人の読書時間も減ったりして(笑)。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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