エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【244】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【244】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年3月16日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

「落語ブーム」の息が長い。2005年の民放ドラマ『タイガー&ドラゴン』が火付け役と一般に言われているから、かれこれ四年になる。
当初はブームが本物かどうか疑わしいところもあったが、落語家の襲名ラッシュで話題が続き、NHKドラマ『ちりとてちん』などでうまくつないできた。
新たなブームが次々生み出され、すぐに消費し尽くされる例がほとんどなだけに意外な健闘ぶりだ。

若手漫才師が中心の、ネタだけでなくバラエティー企画やトークを含めたテレビの「お笑いブーム」とは一線を画し、派手さはなくても、落語家の芸そのものをじっくり聴こうという人が増えているのか、小学館が今年一月から隔週で刊行を開始したCD付『落語・昭和の名人』の第一巻「三代目古今亭志ん朝」は三十万部を超えたという。
発売記念の特別価格で490円という安さも理由のひとつだったが、定価1,190円の第二巻も15万部、第三巻も12万部の発行部数だそうだ(部数は2月23日付報道による)。

ただ、やはり気になるのは、東京の出版社に勤める人たちにとって「落語家」と言えばあくまで“江戸前”を指しているということ。
全二十六巻で上方落語はなんと「六代目笑福亭松鶴」ただ一巻。
二十五対一という比率は、そのまま経済格差ということか。

他の落語本や雑誌特集もそう。テレビもそう。NHK『日本の話芸』に登場する上方落語家は少ない(頑張れ!『上方演芸ホール』『平成紅梅亭』)。
BSデジタルの落語番組となるとなおさらである。
もっとも、落語家や寄席の数、録音や録画といった過去の蓄積の量が東西で違うのも確かだが。
それにしても、今どき過去の蓄積で商売ができるなんて、こんなボロい話はない。
また、テレビは多チャンネル化の時代を向かえ、コンテンツ不足が指摘されるところだが、落語なら公開録画、ヘタすりゃ落語会を撮影しておけばいいのだから、知恵を絞る必要も予算も必要ない。
そう考えると、昨今珍しく息の長いこの落語ブームは、放送・出版業界が陰で一致協力して育て、収束しないよう話題を振りまき続けているのでは?……などと邪推したくもなる。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
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40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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