エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【239】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【239】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年1月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

「飛び地」をご存知だろうか。飛び地とは、都道府県、市町村などの行政区画の一部が、別の行政区画内に島のように離れて存在する土地を指す。
例えば、和歌山県の北山村。テレビの気象情報で近畿地方の画面を観ながら、「あれは何だろう?」と思ったことがある人も少なくないのではないだろうか。
和歌山県と奈良県と三重県の県境あたりのクチュクチュと丸まった境界線で囲まれた米粒のような小さなエリア、あれが「飛び地の村」として知られる北山村である。

奈良県と三重県に囲まれたこの村は、和歌山県の文字通りの「陸の孤島」。
しかも北山村は、その一部ではなく、村全体がまるごと飛び地になっている全国唯一の例だ。
北山村には、仕事で行ったことがある。
自動車ではなく、列車と路線バスを乗り継いで行ったのだが、京都から新宮までJRの特急列車、新宮から熊野市までが普通列車、熊野市駅から北山村までは一日二本の村営バスという行程。
乗り継ぎ、待ち時間を含めて七時間ほどかかった。

仕事とは言っても、「飛び地を訪ねること」それ自体が目的の仕事だった。
ご苦労なこった。というか、旅行気分を満喫、北山村では温泉も楽しんだ。

そんな飛び地について書かれた本がこのほど出版された。
『地図に秘められた意外な歴史! 日本列島飛び地の謎』(浅井建爾、廣済堂出版)。
一昨年、『日本全国「県境」の謎』でヒットを飛ばした著者による新刊。

地図マニアの著者が文献資料などを詳細に調べ、様々な事情で飛び地が生まれた経緯などを紹介している。
一般的には飛び地と定義されない準飛び地的な土地も含めているが、身近に「へえ、そんなユニークなところがあるのか」と、びっくりするような例があって、興味深い。

飛び地に関する珍しい本としては、既に『世界飛び地大全――不思議な国境線の舞台裏』(吉田一郎、社会評論社)が二〇〇六年に刊行されている。
こちらは国家レベルの飛び地が扱われていて、国際的な政治や歴史、民族、宗教、植民地など、いろいろと考えさせられるところもあって、よりダイナミックなおもしろさがある。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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