エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【206】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年8月16日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
フードマイレージ(フードマイル)という言葉をご存じだろうか。簡単に言ってしまえば、食材がどれぐらいの距離運ばれたかを示す指標。輸入など遠距離輸送に伴うエネルギー燃焼による地球温暖化といった、食の環境負荷を考えようという発想から生まれた。何のことはない。地元で収穫された自然の恵みを食べるという、先人のあたりまえの暮らしを今どきの表現で見直そうというものだ。
で、連想したのがブックマイレージ。もちろん、食材と本を一緒にはできないが、インターネット書店の本の宅配における「もったいない」については、かねがね気になっていた。
本は従来、注文が客から書店、注文伝票が書店から取次ぎ、取次ぎから出版社へ、そして、注文した本が出版社から取次ぎ、取次ぎから書店、書店から客へと往復するのに最低でも二週間、どうかすると一カ月以上かかっていた。それが、ネット書店の登場で、翌々日には宅配で届くようになった。しかも、一定額以上の注文で送料無料。ただ、便利にはなったが、たった一冊の本を配達するためにトラックの燃料や段ボール箱の原材料など浪費が増えたと言える。
だから私は、欲しい本が何冊かたまってから一括注文するようにしていた。送料は無料だから、まとめて注文するメリットはないのだが、大きな視野で考えれば地球の資源を節約することになる、と。
ところが、数冊注文したうちの一冊だけ入荷が予定より大幅に遅れたことがあり、一括配送を指定していたものだから、即出荷できたはずのその他の本も含めて、かなりの日数待たされたトラブルを経験。それ以来、在庫の有無が混在する注文はせず、個別に注文するようにした。ネット書店側がそう勧めたのだ。
さらに「キャンペーン期間中」が配達の無駄に拍車をかける。例えば、12,000円分の本を買うとする。今なら3,980円以上の購入につき一つ景品がもらえるというので、一度に注文せず、4,000円ずつ三回に分けて注文。景品を三個手に入れる。しかし、そうすると、本が二、三冊しか入っていないスカスカの大きな段ボール箱が一回、一回、その都度、千葉県の物流センターから出荷されることになる。
ああ、何たる無駄!
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)