エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【302】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【302】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2013年6月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

古本屋に安く出ていたら読もうと思っていた小説を見つけたので買ってきた。
市販本ではないようで、「パイロット版」と記されている。
私は、古本屋によく行くほうだと思うが、「パイロット版」を手にしたのは初めてのことだ。
ソフトカバーで、墨一色の表紙に「××の最新作」「5月2日発売」「予価××円」とある。
その作家の熱烈なファンなら、関係者しか手にできない「レアなコレクターズ・アイテム」として、プレミア価格でも買うかもしれないが、その古本屋はあっさり均一台に出していた。
音楽CDの「見本盤」ならインターネットのヤフーオークションでよく見かける。
CDの場合は市販品と同じものにシールが貼られているだけということも多く、プレミアどころか、むしろ安く買うこともできる。
試写会でマスコミ関係者などに配られるプレスシート(解説パンフ)もヤフオクには多数出品されている。
こちらも余程人気のスターや作品なら映画館で市販されるパンフより高値で取引されるが、流通数が多すぎるのか、入札がない場合も少なくないようだ。

ただし、ヤフオクでも本のパイロット版というのは、ほとんど見当たらず、あったとしてもコミックぐらい。
こういった関係者向けの見本品は、原則的に転売禁止とされているが、CDやプレスシートと違って、本は業界のルールが比較的守られているということか。
あるいは、そもそも本という商品は事前に見本を大量に撒くようなマーケティングのビジネスではないのかもしれない。

ところで、私が入手したパイロット版には、最初のページに小説のあらすじと、問い合わせ先である出版社の関係部署の各担当者の姓名、電話番号が記され、注意書きが添えられていた。
「校正刷りを元にしたパイロット版のため、読みにくい部分がございます」「お読みになりましたら、破棄してください」と。
ただし、「校正刷り」段階の本文はともかく、編集者が記したのであろう、たかだか四百字程度のあらすじに、いきなり誤植がった。この本、大丈夫なんだろうかと思ったが、そんなことを言ってると、そのうち自分に返ってくるから、ここらでやめておかなくては。

 

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40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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