エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【281】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2011年9月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
通勤中、駅で電車を待っているときや、車内では本を読んでいる。座れたときも、立っているときも。
駅構内や路上を歩いているときは常に、iPodに接続したカナル型(インナー)ヘッドホンを耳にねじ込んで、音楽を聴いている。
でも、本を読んでいるときは音楽は聴かない。
インナーホンは頭の中に音像が結ばれるので、読書に集中できないからだ。
スピーカーから流れてくる音楽ならBGMにもなるが、耳の穴に直接注入される音楽は、読書にとって邪魔になる。
だから、本を鞄から取り出すと、iPodの停止ボタンを押して、それから本を読み始める。
ただ、インナーホンはそのまま。耳から外さない。
少しでも車内の雑音を遮断するために。
近年は外出時、ノイズキャンセリング機能を持つタイプと高遮音性タイプ、二種類のインナーホンを使用している。
それぞれ、ある種の雑音を低減するよう設計されているのだ。
つまり、インナーホンを耳につけていても、まったく音は鳴っていないのだが、そのうちいつか、隣に座っている人に音漏れを注意されることがあるのではないかという予感がしてならない。
ヘッドホンの音漏れにいつも不満を持っている人の幻聴か、近くに音漏れしている人がいて隣の人と間違えたのか。
先日こんなことがあった……という過去のエピソードではなく、未来の予言としてここに記しておくことにしよう。
ちなみに、ヘッドホンで音楽を聴きながら自転車に乗っている人をよく見かけるが、私はそんなことは絶対にしない。法を守る守らない以前に、自分の身の安全を考えるからだ。
いや、待てよ。その人たちだって、ヘッドホンをつけているだけで音楽を聴いているとは限らない、か。
見ただけではわからないのだから(ほとんど聴いているだろうが)。
もっとも、私は自転車では無音でもつけない。第三者が見てわかるように。それは、店のレジでヘッドホンをはずすのと同じことだ。
無音で店員の声が聞こえるからはずさなくてもいい……ではなく、「あなたの言葉を聴いていますよ」と示すために。
この場合はそれが礼儀でもある。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)