エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【247】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【247】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2009年5月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

新潮社の『日本鉄道旅行地図帳』がこのほど全巻完結した。
日本初の正縮尺の鉄道地図だとか。
言われてみれば確かに、鉄道地図で鉄道が敷かれていない部分は「無駄」なスペースだから、これまでの鉄道地図は誌面を効率的にレイアウトできるようデフォルメされたりしていた。

こうして本格的な地図上に全線全駅の詳しい路線図や関連情報が記されたものを眺めていると、ある路線がなぜそのようなルートをとっているのかがわかる。
あたりまえの話で、山や川などの地形がそうなっているからだが、目で見て直感的に納得できるところなどは素朴におもしろい。
「北海道」から「九州・沖縄」まで十二分冊。B5判各64ページほどの薄さだから、実際に旅に持っていけば、車窓からの眺めがより楽しめるだろう。

かつて私は、鉄道で旅に出るときはいつも一冊の文庫本を鞄に入れていた。
それは文春文庫『駅―JR全線全駅』(品切れ)で、上巻が東日本編、下巻が西日本編になっていて、行き先の方面によってどちらかを持っていった。
この本には、各駅の開業日や乗降客数といった基礎データから、駅弁情報や近辺の名所旧跡案内、駅名・地名の由来、駅前や車窓の風景描写までが記されている。
さらには、その駅やその地方が舞台になった小説の引用まで掲載され、コンパクトながら、盛り沢山な内容となっていた。
そういった本は、旅に出る前に読んでも、帰ってから読んでも、その醍醐味は味わえない。
今そこを列車が走っているまさにその時に、該当部分を読むのが何とも言えず楽しいのだ。

もっとも、『日本鉄道旅行地図帳』はその半分以上が無味乾燥な駅のデータ表で、「全廃線」を示した地図や鉄道保存施設の紹介記事など、以前なら鉄道オタクしか見向きもしなかった情報がぎっしり。
そんな本が、4月20日現在で累計発行部数135万部というから、鉄道旅行ファンが一般に広がっているということなのだろう。

講談社も三月から『【図説】日本の鉄道・東海道ライン』全十巻の刊行を始めた。
こちらは「全廃線」ならぬ「全配線」が売りだ。
敷かれた線路一つひとつの上下線、分岐、引上線、側線、終端部の車止め、ポイント、駅ホームも含めすべて描かれている。
マニアックすぎるぞ!売れるのか?

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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