エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【219】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2008年3月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
口コミという言葉がある。「口コミで人気の……」などと使われる。
マスコミ、つまりメディアを通じて多くの人々に知られるようになったのではなく、一般客の評判が口から口へと広まった、ということだ。
もちろん、単に情報の伝わり方の違いを表わしているだけではなく、その情報に信憑(ぴよう)性があるというイメージ、あるいは限定的な情報という、ある特別な感じが、この口コミという言葉にはあるのだろう。
裏を返せば、お店や物を紹介するマスメディアの商業主義や、大きな影響力、特定の情報に集中する不自然さなどを一般の人々がちゃんと認識しているということを示している。
もっとも、「口コミで人気の……」という言葉をどこで目や耳にするかというと、実はマスメディアである。そもそも「口コミで人気の……」というのは第三者的、俯瞰(ふかん)的な言い方であり、友人や知人に、自分が見つけたお店や物を紹介する時に「口コミで人気の……」とは言わない。
「口コミで人気が広まったんだって」と付け加えるように教えてくれる人がいるかもしれないが、でもそういう場合、その人は「口コミで人気の……」と伝えたマスメディアからその情報を知ったということだろう。
あるいはその友人は、「口コミで人気の……」と伝えたマスメディアからその情報を知ったそのまた友人から「口コミで人気の……」というセリフごと聞いたのだろう。
インターネットのブログが普及した今では、以前とは違い、マスメディアを通じてではなくても、情報が不特定多数に広まるケースもでてきたが、単に旧来のメディアであるテレビや雑誌から受け取った情報ではないという意味で、それも口コミ情報として扱われているのかも知れない。
ただし、ネット情報の多くは既存のメディアが情報源で、ねずみ算式に広まったものに過ぎない。
要するに、口コミと言われる情報のほとんどはマスコミ情報と言っていい。逆に言えば、友人や知人と交換するクローズドな情報、真の口コミ情報は今後ますます貴重になってくるのはもちろん、公にオープンにされている何でもない情報から重要な文脈を独自に読み取る能力が必要になってくるだろう。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)