エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【203】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【203】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2007年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

「リーチ……。いよいよフォークナー全集があと一冊で全巻揃う。全27巻。そう、あれは(略)1997年だったから、私が全集を集めだして既に七年が経ったことになる」
「全巻揃ったら、この欄でまた報告してもいいのだが、さて何年後になるやら。いや、明日見つかって次回報告できるかもしれない。それはわからない。だから、おもしろい」
上記の文章を書いたのは2004年のことだった。あれから三年――ついに最後の一冊が手に入った。都合十年。決して短い時間ではなかった。最後の一冊はインターネットのある古書検索サイトで見つけた。今日まで、思いつくたびに書名を入力しては時々チェックしていた。
ただし、最後の一冊は図書館落ちの本。「除籍処理済」のスタンプが小口に押されていて見返しに図書館のシールが貼られている。しかも、函がない。いずれ函付き美品のものが見つかったら買い直すことになるとは思うが、それでもとりあえずは買っておかなければ、コンディションのいいものとこの先何年後に出会えるかわからない。
各巻が順次新刊として発行されていた頃に購入したのはわずかに数冊。あとは立ち寄った古書店や、各地で開催された古本市、ネット古書店はもちろん、ネットオークションなどで買い集めた。いずれにせよ、流通している数の極めて少ないターゲットだった。

「世界初そして唯一とも言われる冨山房版のフォークナー全集は1967年に刊行開始。完結にこぎつけるまで実に三十年の年月を要した。完結までに多くの巻が品切れになったので、新刊書店で全巻揃う姿を見ることはついになかった」。
もっとも、十年という年月をかけて集めた私も、一冊また一冊と、見つけて買うたびに、あちらの本棚、こちらの本棚、積み上げたいくつかの本の山、いくつもの衣装ケース、自室の押し入れ、その他の部屋の押し入れ、木製あるいは金属製の倉庫などへ、バラバラに仕舞い込んでいるので、全巻を目の前にズラーッと並べて、その壮観な眺めを味わうことができるのは、残念ながらもう少し先のことになりそうだ。
さて、それは一か月後か三年後か。十年ってことはないと思うのだが……。

 

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「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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