エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【341】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2016年9月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
「マイ年表」を作り続けている。「マイ年表」とは言っても、自分史のように、自らの人生に関する出来事を年表にしているわけではない。
本や新聞を読んだときなど、日常で関心を持った物事をその都度、一つの年表に書き加えているのだ。
ジャンル分けはせず、またすべてを等価の項目として、ただ時系列で並べていく。 もちろん、紙の年表ではなく、新たな項目をあとから自在に挿入できるように、コンピューターのテキストファイルとして作成している。
例えば、文学作品の発表年や映画の公開年、音楽レコードの発売年。哲学者や科学者の生没年。
戦争の期間や、政治・経済・宗教上の出来事、事件・事故が起きた年などが、マイ年表にはごちゃまぜに並んでいる。
ところで、私たちがさまざまなところで目にする既成の年表は、作成者がテーマや論調、紙幅などに合わせて項目を取捨選択したものだ。
対象が極めて狭い範囲のマニアックな年表から、単に「世界史年表」といった一般的なものまで、無数の年表がある。
例えば、「タクシー業界年表」とか「『ルバイヤート』翻訳年表」とか「性風俗取り締まり年表」というように。
一方、マイ年表は、何の脈絡もないし、何かの論考に役立つ資料ではない。
ただ、これを見れば、いつでも自分の関心を再認識、一覧することができるし、自分が興味を持っている物事や人が、いつ起きたことなのか、何年から何年まで生きたのかが一目で確認できる備忘録になる――それだけではない。
自分の関心のみが基準で選ばれた項目からなるジャンルを超越したマイ年表だからこその気づきや楽しさがある。
マイ年表ではラ・ロシュフコー(一六一三~八〇)と上島鬼貫(一六六一~一七三八)が並んでいる。
ロシュフコーの箴言集を読んでいる時も鬼貫の句集を読んでいる時も、まったく意識していないことだが、マイ年表を見ると、二人の生きた時代が重なっていることに改めて気づく。
「へぇ、そうなんだ」と。
「一八九五年、リュミエール兄弟が世界で初めて映画館での有料公開をした年に、ピアニストのクララ・ハスキルは生まれたのか」とか。
だから何?と言われても困るけど(笑)。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)