エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【312】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2014年4月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
新刊は本屋の店頭に並べて、しばらく売れないと、一部を除き取り次ぎ業者を通じて出版社に返品される。
猶予は数日から数週間。中には、店頭に並べられないまま返品されるものもある。
返品された書籍のカバーが傷んでいたら、掛け替えられたり、あるいは文庫本などの小口が傷んでいたらグラインダーで研磨されたりする場合がある。
客から注文があればそれを再出荷するのだが、このグラインダーをかけられた本の小口の肌触りが、はなはだよろしくない。
また、ページもめくりにくい。
近年、電子書籍が普及していく中で、モノとしての紙の本の魅力が再認識されている。
しかし、そういう意味では、グラインダーによるザラザラ小口は、本を手した指先の感触としては致命的な欠点ではないか。
書店で買うなら、現物を確認できる。
しかし、ネット通販で本を購入する機会が増えた今、注意が必要である。
ところで、私が加入している生協では、本を通常五%割引、キャンペーン期間中は十%割引で通販している。
新刊本は定価販売が原則だから、かなりお得だ。
ポイントカードを導入する書店チェーンも現われているが、還元率は一%ほどだからまったく比較にならない。
ただ、生協は週一回の食料品などの配達便を利用して配達されるので注文のタイミングにもよるが、最短でも二週間以上。
在庫がなく、出版社取り寄せだと三、四週間は平気でかかる。
本というものは、書店で出会った瞬間の「読みたい熱」が最も高く、時間が経つにつれ急激に冷めていく。
通販なら、アマゾンは在庫も豊富で京都なら翌々日に届くが、生協では一か月後に配達されて注文していたことに気づくありさま。
しかし、五%や十%の割引は大きいので、急がない本は生協に注文するのだが、冒頭に記したグラインダー本が届くと最悪だ。
納品は遅いは、小口はザラザラだは。
通販でソフトカバーの単行本や文庫を注文する場合は、発売間もない新刊かつ在庫の本なら概ね大丈夫だが、そうでなければ賭け、と言える。
出版社の本の作り手がグラインダーに無頓着なのが不思議だし、客側の本の扱いも問題だが、日本の高い技術を、小口にやさしい研磨機の開発に向けてもらえないものか。
MK新聞について
「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)