エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【311】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2014年3月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
新聞記事の切り抜きは一、二週間分をまとめてやっている。
過日、二枚の切り抜きを並べながら笑ってしまった。
一枚は、一月二十五日付で、鴨川でユリカモメの飛来が確認されて四十年。
冬の風物詩として京都市民に定着したが、近年、飛来数が減っている現状を伝える記事。
リカモメ保護基金の調査で1986年度の飛来数は7,400羽を超えていたが本年度は710羽にとどまっていて、原因は不明だという。
もう一枚の記事は、その翌々日の27日付。近年、鴨川の出町橋近辺などで10~30匹ほどの生息が確認されているヌートリア(大型のネズミの仲間)について、京都府と市が初の実態調査を実施し、捕獲に乗り出すというもの。
興味深いのは、どちらも「生物多様性」という流行りのキーワードが使われていること。
ユリカモメは「生物多様性を身近に感じさせ、人々に自然の豊かさを伝えている」と大学講師のコメントを紹介。
ヌートリアに対しては京都市が「生物多様性を守るため適切に対応したい」と。
また、「ユリカモメが鴨川に定着」した理由として推測されるのが「市民による餌やり」。
餌やりについてヌートリアに対し、府は「禁止する看板を立てパトロール」しているという。
ユリカモメが定着したもう一つの理由として、鴨川には「魚や水生昆虫が多く生息している」からと推測。
一方で「ヌートリアはタナゴ類が産卵する二枚貝を食べるため、生態系に与える影響が大きい」。
だから「適切に対応」するらしい。
生命の差別だとかヌートリアが可愛そうだとか子どもじみたことを言いたいのでも、他人ごととしてイジワルを言っているのでもない。
人間には人間の都合があるのだし、鴨川のヌートリアによる「農業などへの被害は出ていない」が他地域は既に被害が発生しているというのだから、「特定外来生物法に基づく防除計画を策定」するのは正論に違いない。
ただ、渡り鳥のユリカモメ「市民に親しまれ」「鴨川彩り40年」の記事と、近年「鴨川に生息する」外来生物のヌートリア「被害調査し」「捕獲へ」の記事を並べてみると、善はより善に、悪はより悪に、まるでコントのように扱いに差がつけられているところに、複雑な気持ちになる。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)