エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【296】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2012年12月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
自炊をしていると、文字通り、本の隠れたところが露わになって、興味深い。
もちろん、この場合の自炊は、本のページをバラバラにし、スキャナに通して版面を取り込み、自分で電子書籍をつくることだ。
例えば、製本の綴じ。その方法には、糸かがり綴じや、無線綴じ、網代綴じなどがあるが、知識としては解説や図で知っていても、痛みのひどい古本か、解体でもしてみないかぎり、自分が持っている本の綴じを実際に目にすることは、これまでなかった。
それが、自炊することで、いろんな時代の、さまざまな価格帯の、それぞれの出版社の、異なる版型・装丁の、多くの本の綴じを目にするようになった。
文庫本は無線綴じだが、本(出版社あるいは製本会社)によって、裁断した本文用紙の背に入れる切り込み方が違っているようだ。
無線綴じは(糸や針金=線を使わず)接着剤のみで綴じる方法だが、背に切り込みを入れることによって接着力を強めている。
切り込みは平行に何本も入っているのだが、間隔は五ミリから二センチぐらいまでまちまち、背に垂直方向のもの、斜めのものがあるようだ。
中には平行ではなく、右肩上がり、左肩上がりの切り込みが交互に入っているものもある。
網代綴じは、本文用紙の背を完全に裁断してしまわずに、折り丁(主に十六ページ単位で印刷した本文用紙を折り畳んだ状態のもの)の内側のページへ接着剤が入り込むよう点線状に背に切り抜きを施して接着したもので、現在の一般的な書籍の主流。
糸かがり綴じよりコストが低く、無線綴じより丈夫でいいのだが、逆に自炊するには、結構やりにくい。
一冊の本を一度で裁断できる大型の裁断機を使っているなら問題ないのだが、三十ページぐらいずつ本を引き裂いて裁断するには、手間がかかるし、きれいに引き裂きにくい。
糸かがり綴じの本が他より多い出版社があることにも気づいた。
解体してみなければ分からないのに、見えないところで手を抜かず、長年の愛読に耐える商品づくりなのだろう。
また、古い本に糸かがり綴じが多いのは、丁寧なモノづくりという意味だけでなく、接着剤の性能が今日ほど良くないという理由もあるのかもしれない。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)