山の一家*葉根舎「葉根たより」【62】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2022年2月1日号の掲載記事です。
大森梨沙子さんの執筆です。
葉根たより
よき新年をお迎えでしょうか。こちらの地方は年末から白銀の世界になりました。山水を引くわが家の水もひときわ冷たくなり、寒の入り、味噌仕込みの季節です。
「水泉動(しみずあたたかをふくむ)」「水沢腹堅(さわみずこおりつめる)」凍っていた泉が溶け、水が動き出す季節でもあるようですが、沢の水が凍ってしまう頃とも。冬の真っ只中のようですが、ふくらむ蕾など三寒四温ですすむ季節も見つけてゆきたいですね。
<こぞの雪>
年末の大雪、うちは山の中腹なので合計二メートルほどの積雪がありましたが、一日四十センチくらいづつゆっくり積もったこと、そのくらいの雪には慣れていることで、しっかり雪かきをしていれば穏やかに過ごせました。
年末の発送を終えていたので、山を降りる必要もなかったことは幸いでした。
慣れている雪でも、パン焼きなどと重なるととても大変です。山の麓はうちよりも積雪は少ないものの、積もることが少ないので大変な思いをされたかと思います。
身近では事故がなかったことが何よりです。
けれどまだ雪はたくさん残っており、雪溶けの過程で夫げんの実家の瓦が割れ、雨漏りをしてしまい、その修理がなかなか大変でした。
古い家で今は空き家になっており、あちこち傷んでいてよく雨漏りをするので、これからどう維持していくか、大きな課題です。
占星術で修行者と言われたげん、まだまだその道のりは厳しいのでしょうか…。
<豊の雪>
新しき 年の初めに 豊(とよ)の稔(とし) しるすとならし 雪の降れるは
新しい年の初めに豊作の 前触れをするらしい雪が降るのは (万葉集三九二五 葛井連諸会)
「富正月」とは、元日、または三が日に降る雨や雪のことで、豊作のしるしとされてきました。
水が豊かな年は田んぼへ水をしっかり引けるということ。
この感覚にピンとこない方が今は増えてしまいましたね。
うちは田んぼだけではなく、水道も村で管理しており、村人の減った今、げんが管理しているので、雪が降ると今年の夏は水不足にならなさそうだな、と安心します。
大変ですが、毎日頂いている水がどこからどのようにやって来ているのか分かっていること、自らの手で対処している実感、それらは何者にも変え難いものがあります。
時に制限があるからこそ、気付かされることもあります。
自然は水に限らず、火も土も風も美しさ、心地よさ、助け、脅威などを持つものですね。
こうして毎年雪を体験していても雪は本当に不思議なものです。小さな綺麗な結晶が美しい世界を作り、大きな固まりとなり、困難を強い、溶けて流れ去り、暮らしの助けとなる。
そのような実感と共に、この暮らしの中で感じる水の循環、大地の呼吸、お日さまから頂く命の火のめぐりをアトリエで反芻しながら描いています。
窓からは境界のなくなるような雪の世界。
雪かき、かまくら作りに興じる子どもたちの声が聴こえてきます。
子供たちがあっという間に雪をかいてくれるので、こんな雪国でも私は雪かき知らず。
その分、みんなのお腹を満たすことに精を出しています。
<からだのーと>
今年は二月一日が新月旧正月。
暦を感じて暮らしていると、旧正月の方がしっくりくるようになってきました。
冬至に陰が極まり、徐々に春を迎える準備をし、旧正月、そして二月三日の節分に邪気を払い、翌日に立春を迎える。
無情息災を願う七草の節句は二月七日、一月よりも季節がすすみ、草摘みしやすくなっています。
二月十五日は小正月、小豆粥やお汁粉をいただき、女性ホルモンや腎臓を整えます。
今年も皆様が健やかに暮らせることをお祈りしております。
(一月十一日記)
■葉根舎
haneya8011@gmail.com
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
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