フットハットがゆく【275】「一年草」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2016年10月1日号の掲載記事です。
一年草
そろそろ秋が近付いてくると、植物が枯れ始めます。
一年草などはタネを残して死んで行くわけですが、この夏の想い出とかあるのでしょうか…。
植物にはめしべとおしべがあって、おしべの花粉をめしべが受粉しないとタネはできないわけです。
めしべとおしべは微妙な距離感で離れていますから、風が吹いたくらいでは接触しません。
ということで、蜜をため、花を咲かせます。そこに、ハチやチョウがやって来て蜜を吸うわけですが、その時に体についた花粉が、めしべに触れて受粉するわけです。
そんな花に集まる虫を狙って、集まってくる虫もいます。
カマキリとかクモなどが、チョウを狙っていますね。
花に集まる虫を狙うクモは、花のように奇麗な色をしたものもいますし、カマキリも草のくきにそっくりな色と細長さで、チョウからは見えにくいと思います。
カマキリはつかまえた虫を頭からバリバリ食べますし、クモは糸でグルグル巻きにしてじわじわ体液を吸います。
のんきに見えるチョウチョウも、まさに蜜を吸うために命がけです。
生きるか死ぬかの攻防が、美しく甘い香りのする花のまわりで行われているのです。
花の部分より少し下がって、くきの部分を見ますと、こちらもなかなかの攻防です。
アブラムシがたかって、草の汁を吸っています。
アブラムシは小さなゴマに触覚がついたような虫で、大量発生して植物が枯れるほど汁を吸うので、植物にとっては大変迷惑な虫です。
ところがこのアブラムシを主食にしている虫がいます。テントウムシです。
テントウムシは(種類にもよりますが)幼虫も成虫もアブラムシを食べます。
サンバでも踊っていそうな陽気な外見をしていますが、実はものすごい肉食で、アブラムシをムシャムシャと食べ続けます。
植物にとっては正義の味方ですが、アブラムシ側にとっては怪物みたいな虫です。
ただアブラムシも無抵抗に食べられ続けているわけではありません。
植物の汁を吸っては、お尻から甘い汁を出すのです。
その甘い汁を求めて、アリが寄って来ます。
アリはアブラムシが出す甘い汁をもらう代わりに、テントウムシが来たら追い払います。
このアブラムシ対テントウムシ対アリンコの攻防が、植物のくきで繰り広げられているのです。
くきの部分より下がって、根っこの部分を見るとどうでしょうか?
よく育った植物の根っこの部分にはミミズがいるでしょう。
ミミズは見た目がグロテスクで嫌われますが、土を肥やすことで有名です。
しかしミミズがたくさんいると、それを狙ってモグラが来ます。
よく、モグラが来たら、植物の根っこや球根が食い荒らされて枯れる、といわれますがそれは間違いです。
モグラは肉食なので、ミミズや虫の幼虫は食べても、根っこをかじったりはしません。
モグラの穴に侵入して来たネズミが、草木の根っこをかじるといいます。
土中のミミズ対モグラ対ネズミ、この戦いもなかなかシビアです。
タネを残して死んで行く一年草の夏の想い出、なかなか多そうです…
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