フットハットがゆく【238】「命取り」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【238】「命取り」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2013年9月1日号の掲載記事です。

命取り

過去に最悪の仕事のミスといえば、結婚式のビデオ撮影の仕事に、ビデオカメラを忘れて行ったことです。
出かける前のことを思い出すと、まずビデオカメラを含む機材を玄関に用意して、そのまま、歩いて30秒ほどの場所にある駐車場に車をとりに行って、家に戻って機材を積むのを忘れてそのまま目的地に向かってしまったのです。
しかも、家から撮影地まで3時間かかる場所でした。
着いてからトランクをあけてカメラがないことに気づき、顔面蒼白を通り越して、幽体離脱しかけましたね。
ビデオカメラマンがビデオカメラを忘れる。
これはバッターがバットを忘れて打席に立つようなものですね。
結局その時は、式関係者のホームビデオを借りて撮影しました。

過程は違いますが同じようなミスになったのが、これまた某結婚式の撮影で、新婦の父親から『式の写真を撮ってくれ』と言われたので、わざわざ知人からスチールカメラを借りて会場に行ったところ…「それで動画撮れんの? 」とのこと。
「いや、写真て言いましたやん! 」と言ったら、「ワシが言ったのは活動写真のことや。お前がビデオ屋なのは知ってるから、わざわざ普通の写真は頼まんやろ? 」と言われました。
いや、それなら最初から写真じゃなくて、活動写真って言ってくださいよ。
というかビデオのことを今時、活動写真て、死語と言うより歴史用語ですやん。

意外とカメラマンがやってしまう凡ミスが、RECボタンの押し間違いですね。
RECボタンを押して録画を始め、あるカットを撮りました。
そこでRECボタンを再度押して録画を止めるのですが、うまく押せてなくて録画が回ったまま、移動の最中の地面がゆらゆらと映ったままだったりします。
このミスは通常の撮影では絶対しませんが、異様な暑さだったとか、土砂降りだったとか、体力的に限界な時に起こったりします。
僕は一度バイクの8時間耐久レースを撮影して、最後のゴールでド派手な花火が打ち上がる感動的なシーンでこれをやってしまいました。
8時間炎天下、過酷な環境を乗り切り、僕自身感動して涙を流しながら完走に歓喜するライダー、メカニック、そして壮大な花火を撮りました。
でも家に帰ってくたくたの中テープチェックすると、ゆらゆら揺れる地面がいっぱい映っていて、肝心のライダーもメカニックも花火の映像もなし。
そうです、撮りたい場面でストップボタンを押し、移動の際に録画ボタンを押していたのです。
泣きましたね。
別働隊の映像を使って編集して、ことなきを得ました。
録画はされなかったけどファインダーには映っていたあの感動の映像、今でも脳裏には残っています。

「冒険とは、生きて帰ること」と言った人がいました。
その言葉を借りると、「ビデオカメラマンとは映像を残すこと」となります。
どんなにいい画をとっても、テープや記録媒体を破損させては、カメラマンの存在は消えるのです。
AD時代に先輩ディレクターから、「カメラマンが撮った映像マスターテープは命よりも大事に扱え! 」と言われました。
マスターテープをコピーして複製が出来た時点で、やっと一息つける思いでした。

 

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