智積院の暁天講座2023「智積院と障壁画」井上真美(宝物館学芸員)

観光
智積院の暁天講座2023「智積院と障壁画」井上真美(宝物館学芸員)

京都にあるいくつかのお寺では、夏の暑い時期の早朝に「暁天講座」が行われます。
無料で予約なしに参加できる講演会です。

2023年8月2日(水)の智積院の暁天講座では、真言宗智山派教化部収蔵課初期で宝物館学芸員の井上真美さんの講演が行われました。
講演終了後には、名勝庭園と4月4日に開館したばかりの宝物館の無料公開も行われます。

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智積院の暁天講座

智積院の「暁天講座」について

智積院の暁天講座は日程は毎年固定の8月1日と2日の2日間にわたって開催されます。
2023年で第67回を迎える恒例行事です。

智積院の暁天講座は、概ね2日間のどちらかが僧侶による法話、どちらかが観光関係者や学者や経営者などの講話になっています。
2023年は観光関係者等の枠で智積院宝物館の学芸員が登場しました。
暁天講座終了後の朝粥接待が恒例でしたが、2019年~2022年は智積院会館やコロナ禍で中止となり、2023年も再開されませんでした。

早朝の智積院 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

早朝の智積院 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

2023年の暁天講座

日程 2023年8月1日(火)~2日(水)6:30~7:30
テーマ

8月1日(火) 海老塚和秀師(竹林寺住職)
「同行二人の心」

8月2日(水) 井上真美氏(智積院宝物館学芸員)
「智積院と障壁画」

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会場は講堂

拝観受付前の暁天講座受付 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

拝観受付前の暁天講座受付 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

早朝6:30、智積院の境内では明王殿で行われている朝のお勤めの朗々とした読経と鐘の音が響いています。
暁天講座の会場は、講堂です。受付は通常の拝観受付前で行われます。
2020年~2022年のコロナ禍中は定員ありの事前予約制でしたが、2023年は予約なしに戻りました。
講堂が定員オーバーした場合の予備席も用意されていましたが、定員内に収まったため今回は使用されませんでした。

配布資料一式 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

配布資料一式 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

配布された資料は以下のとおりです。

  • 井上真美氏のプロフィール
  • 井上真美氏の講演資料
  • お勤め文
  • うちわ
  • 絵本「こうぼうさん」
  • ペットボトルの飲料水

配布された講演資料と投影されたスライドを用いながらの講演でした。

お勤め 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

お勤め 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

暁天講座は、お勤めの唱和から始まります。

開経文(かいきょうのもん)は開経偈(かいきょうげ)とも言われ、読経の前に唱えられます。
真言宗だけでなく、日蓮宗を除く仏教各派で使われています。
御宝号(ごほうごう)は、本尊と弘法大師空海と興教大師覚鑁への帰依を唱えます。
普回向(ふえこう)は戸京の最後に読み上げる文章です。宗派によって文面は異なります。
お勤めが終わると、講演が始まります。

どれも短いので、お勤めはすぐに終わります。

 

講師プロフィール概要

1992年大阪府生まれ。
京都府立大学大学院文学研究科で文化遺産学を学ぶ。
大学院修了後、学芸員として智積院に勤務。

 

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井上真美氏「智積院と障壁画」

智積院について

智積院は真言宗智山派の総本山です。
もともと和歌山の根来寺内に作られた修行の場でしたが、豊臣秀吉による根来攻めでいったん廃絶しました。
慶長6年(1601年)に徳川家康から豊国神社の一部を与えられた復興が始まります。
元和元年(1615年)には徳川家康から祥雲寺を与えられ、本格的に復興します。

祥雲寺とは、豊臣秀吉が天正19年(1591年)に夭折した子の鶴松の菩提を弔うために建立した寺院です。
智積院の寺伝にしか出てこないため、祥雲寺非実在説もありましたが、1992年の講堂再建工事中に祥雲寺客殿の遺構が発掘され、実在が証明されました。
今まさに暁天講座を行っている講堂の下に祥雲寺があったのです。
智積院に伝わる障壁画も祥雲寺から引き継がれたものです。

以後、何度か火災に遭いながらもその度に復興を遂げました。

「桜図」の部分 金井紫雲編「芸術資料」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「桜図」の部分 金井紫雲編「芸術資料」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

智積院展示収蔵庫 宝物館について

宝物館は、今年2023年の4月4日に開館したばかりです。
宗祖弘法大師空海ご誕生1250年慶讃事業の一環として、新築されました。

これまで智積院内の各所で保管されていた貴重な資料が宝物館に集約されて保管されています。
最新の温湿度管理システムが取り入れられ、旧収蔵庫と比べて保存環境も飛躍的に改善されました。

桜図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

桜図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

展示にも工夫が凝らされています。
薄暗い空間に自然光に近い照明を取り入れ、もともと障壁画があった大書院での見え方を再現しています。
ガラスケースや反射防止フィルムを用いて、旧収蔵庫よりも間近から障壁画を見られるようになっています。

館内は国宝障壁画展示室と特別展示室からなっています。
国宝障壁画展示室では、智積院の障壁画が展示されています。
特別展示室では、智積院が所蔵する多くの資料から約10点ずつを選び、順次公開しています。ちょうど7月31日に展示替えがあったばかりです。
旧収蔵庫では展示されてこなかった資料がどんどん展示されるようになります。

「松に秋草図」 京都市観光課編「京都の障壁画」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「松に秋草図」 京都市観光課編「京都の障壁画」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

長谷川派による智積院障壁画

智積院の障壁画は、長谷川等伯と久蔵の親子その他の長谷川一門によって描かれました。
祥雲寺創建時に描かれ、智積院へと障壁画が引き継がれました。

天和2年(1682年)の火災や1892年の盗難、1947年の火災で失われた障壁画も少なくありません。
しかし、多くの災禍をくぐりぬけて今まで障壁画が伝わってきました。
特に1947年の火災では、直前に合成樹脂による保存が行われていたため、障壁画が大きなダメージを負うことなく緊急搬出に成功するという幸運もありました。

智積院の障壁画は長谷川一門によって描かれましたが、どの障壁画が誰に描かれてかはわかっていません。
それぞれの絵画の画風から、これはおそらく等伯だろう、久蔵だろう、いずれでもない一門によるものだろう、と判断されています。
「松に秋草図」のように、一般的には等伯筆とされているものの、研究者によっては等伯と久蔵の合作という人もいます。

「桜図」 京都市観光課編『京都の障壁画』出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「桜図」 京都市観光課編「京都の障壁画」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

上下の切り縮めの痕跡

宝物館の国宝障壁画展示室では、もともと障壁画があった大書院での配置を再現しています。
ただし、これらの障壁画はずっと大書院にあったわけではありません。
多くの障壁画はもともと襖絵として使われていましたが、火災などの度に使われ方が変わり、壁貼付や屏風として仕立てなおされているものが多いです。
また元は連続した絵だったものが、バラバラに違うところで再利用されていたりもします。
例えば上段の間に使われている襖2面は、もともと「楓図」の一部でした。

楓図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

楓図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

「楓図」や「桜図」、「雪松図」などをよく見ると、上下に絵がずれている部分があります。
これは切り縮めという修復技術が用いられているためです。
火災等によって障壁画の上部や下部の一部が失われた場合、破損した部分を裁断して組み合わせなおすのです。
うまく組み合わせることで、ぱっと見ただけでは自然に見えるようにする修復技術です。

上部や下部を裁断するため、切り縮めをした障壁画は高さが低くなります。
そのため、切り縮めがされていない「松に秋草図」は高くなっています。
有名な「唐獅子図」も「松の秋草図」と同じ高さがあり、この時代の標準的なサイズであったことがわかります。
「楓図」や「桜図」も本来は「松に秋草図」と同じ高さがあったと考えられています。

「楓図」 京都市観光課編『京都の障壁画』出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「楓図」 京都市観光課編『京都の障壁画』出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

驚嘆すべき修復技術

長谷川等伯筆と考えられている「松に黄蜀葵図」は高さ3.3メートルもある大きな絵ですが、実は上部と下部は異なる絵が組み合わされています。
災害によって一部が失われた絵を複数組み合わせることで、新しく一つの絵を作り出しているのです。
一見しただけではわからないすごい技術です。

障壁画の多くは襖絵だったため、引き手がありました。
今も引き手の跡がそのまま残っている絵もありますが、引き手をわからないように修復している絵もあります。
別の絵からぴったりはまるパーツを持ってきて引き手の穴を埋めているのです。
間近でじっくり観察してもまるでわからないような出来栄えです。

松に立葵図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

松に立葵図の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

障壁画は災害に遭わなくても、顔料は次第に剥がれ落ちてきます。
智積院の障壁画の歴史は修復の歴史でもあります。
大切に伝えられてきた障壁画をこれ以上劣化が進まないように後世に伝えていかなければなりません。

しかし、文化財は保存するだけでは不十分です。
できるだけ多くの人に見てもらわなければなりません。
新しい宝物館の完成により、智積院の障壁画の保存と活用が大きく進展しました。

「松に秋草図」 京都市観光課編『京都の障壁画』出典:国立国会図書館デジタルコレクション

「松に秋草図」 京都市観光課編『京都の障壁画』出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

名勝庭園と複製画

暁天講座終了後は、名勝庭園と宝物館の無料公開が行われます。
宝物館の収容人数の都合で、先に名勝庭園に行く組と先に宝物館に行く組に分かれます。

早朝の名勝庭園 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

早朝の名勝庭園 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

智積院の名勝庭園は東向きに作られているため、朝はちょうど逆光になります。

大書院の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

大書院の複製画 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

大書院では、楓図や桜図などの障壁画の複製画が展示されています。
豪華絢爛な空間だったことがわかります。

 

宝物館の無料公開

宝物館へ移動 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

宝物館へ移動 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

7:55に講堂前に集合し、後半の組が宝物館へと向かいます。
4月4日に開館した宝物館を訪れるのは初めてです。
旧収蔵庫と比べると数倍の規模の立派な宝物館です。
展示スペースは1階のみで、収蔵スペースもかなりありそうです。

宝物館 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

宝物館 2023年8月2日 撮影:MKタクシー

宝物館の障壁画展示は素晴らしいものでした。
講話のとおり、照明も非常に工夫が凝らされており、旧収蔵庫とは比べものになりません。
障壁画に金箔が使われるのは、薄暗い屋内を明るくするためといいますが、柔らかい光で照らされる障壁画は見ごたえじゅうぶんです。
これだけの展示で入館料はわずか500円です。
ぜひ、智積院の宝物館を訪れてください。

今回の話しを参考にして、暑さをしのぎつつ、京都観光を楽しんでもらえたらうれしいです。

 

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おわりに

京都のいくつかのお寺で行われている暁天講座の中でも、智積院はおすすめのひとつです。
2018年以来、6年連続での訪問となりました。
特に2023年は新しい宝物館がオープンした年でした。

早朝アクセスについて

魅力的な智積院の暁天講座ですが、6:30開始という早朝開催のために、交通手段に難儀します。
智積院は比較的アクセスが良好な方ではありますが、遠方の方は時間通り訪れるのは困難でしょう。

しかし、24時間営業のMKタクシーなら朝6時だろうと朝5時であろうとアクセス可能です。
MKタクシーなら迎車料金も不要です。

MKタクシーのご予約は075-778-4141まで

便利な配車アプリも是非ご利用ください! → MKスマホ配車

京都観光には観光貸切タクシーもおすすめです。

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まとめ

 

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