エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【413】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【413】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2022年9月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

かつて原付スクーターで日本縦断をしたときに一冊の全国道路地図を持って行ったと、前回の原稿で書いた。
どうでもいいことだが、その地図帳は地元の放送局KBS京都で景品としてもらったものだった。
思い出したので、ついでに。

ミステリー作家・山村美紗の原作だったか脚本だったか、ラジオドラマを聴きながら推理し、犯人がわかった時点で放送局に聴取者が電話する。
そして、犯人の名と理由を回答するという企画で、正解者全員! に全国道路地図が贈られるとのことだった。
物語の細部は忘れてしまったが、犯人確定の決め手となったポイントは今でも憶えている。
登場人物Aがどこかに電話をかける場面があり、直後にXがA宅を訪れる。
AはXに「今、お宅に電話をかけたばかりだ」と言うのだが、注意深い聴取者ならプッシュ音の数から電話番号の桁が多いことに気づき、X宅は市外なのだとわかる。
続いて、その場でAがXに殺される。言葉を発していないのでXが誰なのか、音声からはわからないが、登場人物B、C、Dらのうちで、市外在住者はBだけであることが既に他の場面でさりげなく触れられていて、犯人XはBだとわかる――というわけ。
音声だけのラジオならではの犯人当て推理ドラマ的な表現に、放送当時、とても感心した覚えがある。また、気軽なゲームとしてラジオで誰もが参加できるよう、難し過ぎない点も絶妙だと思った。
あれはいつの放送だったか。インターネットでざっと検索してみたのだが、そんなラジオドラマがあったという記述さえ見あたらなかった。

ところで、七〇年代後半から八〇年代前半にかけては、女流(今なら不適切用語?)ミステリー作家と言えば、私は山村美紗ではなく、夏樹静子派だった。
いや実を言うと、『夏樹静子作品集』全十巻が1982年から翌年にかけて順次刊行されたときに購読していたほどの愛読者だった。
函入りの立派な造本だった。全巻購入者には書き下ろし新作長編小説が、作品集と同じ装丁の別巻として無料で贈呈された。著者の直筆サインが記入されていた。
八〇年代後半以降、夏樹静子はあまり読まなくなっていったが、2010年出版の『裁判百年史ものがたり』は久しぶりに読んだ。
2016年に亡くなったから、私が読んだ彼女の生前最後の本ということになる。小説ではないが、近代日本の裁判のあゆみについて、専門家ではなく円熟した作家ならではの筆力と視点で描いた、深い内容なのに親しみやすい読みものだ。
夏樹静子ミステリー、再読してみようかな。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。