自給自足の山里から【129】「老若幼の稲刈り」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【129】「老若幼の稲刈り」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年10月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

老若幼の稲刈り

収穫は楽しい幸せ

秋は、収穫の季節。山では栗が毬を割って笑い、柿が赤く微笑む。田んぼで稲が黄金に輝き、畑でナス・ピーマンが誇らしげ。熊・猪・鹿・狐・狸ら盛ん。我が食卓は、豊かな幸せに満ちる。
トラックを運転しての配送労働を止め、自給自足の百姓やろうと山村に移住してのお米作り、稲刈りは、25回目を迎える。
稲ならぬ稗作ったり、鹿に食べられ茎刈り、猪に入られ、泥まみれの稲刈り、冷害で穂軽く立つ悲しき刈り、穂重く腕しびれる喜びの時も、今年はちっと軽く、心少し重いが、収穫は楽しい。「1年の苦労を機械にとられない」(ケンタ30歳)手作業は骨折れるが、報われる幸せがある。

蛸干し、稲城に架け、むしろで天日干し

朝露の消えた稲穂波打つ田に立って、稲刈り前、そっと穂に触り、種を大地に戻し、苗育て田植え、泥と汗にまみれての草取りに思いを馳せつつ、生命いただく祈りをそっと捧げる。
腰にわら紐の束を括り付け、右手にギザギザの稲刈り鎌で、ザクッザクッと刈り、左手いっぱい(4株くらい)を置き、次いで同じく刈り交差させて稲城に架けやすいように置く。すばやく、腰の紐を2~3本抜いて、両手で稲をすくい上げすばやく、腰の紐を2~3本抜いて、両手で稲をすくい上げ、束ねていく。その稲束の株元を上にして、穂先をひろげて干していく。その有様が、あたかも蛸が立っているようで蛸干しという。山村の田んぼ一面蛸だらけとは。
蛸干しされた稲束を、栗の木を支柱に、横に竹を段々に、十段くらい組んで作ったものに、二つ割りして、下段から架けていく。稲束を集め肩に担ぎ運び、手渡し、架けるなどの作業を家族のそれぞれ自主的に行う。日の短い秋の夕日が空を赤く染める頃、架け終わる。山間に立つ姿は、まるで小さな城のように見える。で、稲城という。こんな風景は、今ではほとんど見なくなった。稲刈りし脱穀、わら切りまで一気にやるコンバインが出現。また、わらをエサにした牛飼いがいなくなったことも原因あり、農協の電気乾燥ならぬ天日干しはお米にやさしい。
朝から晩まで、家族・村人総出の手作業である。子どもたちは、その年齢に応じて、鎌を手に、時に一輪車使うなどして働く。稲束でチャンバラごっこして叱られながら。
刈った田には、刈り集めていた草山(すでに土と化すもある)を返す。
10日ほど干した後に脱穀。さらに籾をむしろ(わらで編んだ敷物)で干す。そして、ようやく倉の缶に保存する。我が家では、食べる時に籾摺りし、玄米で味わう。

農・山村の崩壊に抵抗は珍しい?

移住した頃は、12軒が米づくりしていた。ほとんど60歳以上だった。そして、今、ほとんどの人が亡くなり、米づくりしているのは一軒(80歳)。放棄田が増え、荒れていく。心痛む。子どもたちの成長と共に、譲り受けたり、小作したりして、今、34枚の水田と、27枚の畑、合わせて61枚。1町歩余りを、3家族・ユキト(25歳)で耕す。一軒が3~4反耕す。我があ~す農場〔私とちえ(23歳)・あい・れい(20歳)・そして居候〕と、あさって農園〔げん(27歳)・りさ子(28歳)・つくし(5歳)・すぎな(2歳)〕、そしてくまたろ農園〔ケンタ(30歳)・よしみ(28歳)・みのり(2歳)・なお(0歳)〕とユキトである。
5歳のつくしは、田んぼに入り、鎌を握って稲を刈り、稲束を運ぶ。2歳のすぎな・みのりは、兄・親らの働きを見ながら、小川(水路)で遊ぶ。母親に背負われて、笑うなお。田植え・稲刈りは、3家族・村人ユキト・そして都会からの体験居候たちとの共同作業で行う。
鹿猪対策に、網・トタン・電気柵し、田んぼ周りを草刈りしての稲作は、平地では考えられない苦労があるが、1枚1枚の棚田は、それぞれ異なる姿を見せ、興味深く面白い。
それにしても、日本の農山村の崩壊はすさまじい。農業人口は300万人足らずで、60%が65歳以上、そのうち3分の1が70歳以上である。我が村がそうであったように、もう20年もすれば百姓はいなくなる。
そんな動きに抵抗する縄文百姓の老若幼の稲刈り作業は、「めずらしい」と車を止め、写真を撮っていく。

農業中心のアーミッシュ、95%の子が・・・

6人の子どもを育ててきた。3人の男の子は、同じ村にそれぞれ家を構え、2人は結婚し、子育て中。3人の娘は、百姓の我が家を拠点に世界に飛び、今、あい・れいは中南米。隣町の西垣さんは「みんな村に残り百姓やっているなんて奇跡」とおっしゃる。
杉原利治さん(岐阜大)から「縄文百姓は、まさに、時代の先取りです。同じように農業を中心として、アメリカの中で非アメリカ生きてきた、アーミッシュの最近の動向を記した本『アーミッシュの昨日今日明日』(論創社)が送られてきた。
3年前の10月、男がアーミッシュ学校に侵入し、少女5人殺す悲劇。激怒でなく、殺人者の未亡人と家族に赦し、新たな友人関係を築く。
自動車運転せず、公電気使わず、電話制限など静かな自給自足の田園生活のアーミッシュは、95%の子が村(共同体)に残り、アメリカに1000箇所以上の村(ひとつ200人くらい)があり、人口は22万人に及ぶ。共同体相互は、上下でなく、鎖のように結ぶ。
独自に8年制の学校を経営し、大学・高校は禁止、16歳になると20歳まで「遊びまわる」期間があるという。なんだか16歳で家を出て、世間を味わい、20歳で帰ってきたユキトを思わせる。
我が農場では、高校・大学はもちろん、小中学校もほとんど行かず「親の背中を見て」育つ。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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