エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【327】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【327】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2015年7月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

山家悠平著の『遊廓のストライキ 女性たちの二十世紀・序説』という本を買った。
出版社による紹介文には「関東大震災後のモダニズム全盛期に隆盛をきわめた労働争議と呼応するように、『籠の鳥』と呼ばれた遊廓の女性たちが、自らの生と性を奪還するべく立ち上がった。
青森、広島、佐賀、福岡など各地の史料を丹念に読み、無名の女性たちの実像に肉薄」とある。

長年の興味ある分野の本なので、発売されてすぐに入手したのだが、その後、書店で「新装版」と表示された同書が目にとまった。
初版の奥付の発行日が二〇一五年三月二〇日、新装版が五月二〇日だから、わずか二か月。
どういうこと? とネットで出版社のサイトを見ると「朝日新聞、東京・中日新聞、週刊金曜日をはじめ、各紙誌で絶賛! 初版特装版が在庫切れのため、お求めやすい定価で[新装版]として再刊」するということだった。
要するに〈値下げ〉が目的のようである。マスメディアで多数取り上げられ、思いがけなく「売れるチャンス」を得た版元経営者が、打って出ることにした「臨機応変」な対応なのだろう。

初版が三千二百円(税別)で、新装版が二千四百円(同)。
もちろん、増刷だから、また刷り部数が増えれば原価は下がるが、既に購入した読者にとってはそんなこと関係もなく、初版の「なぜか妙に凝った装釘」に八百円も余分に支払ったということになる。
単に手の込んだ装釘は不要だと言いたいのではない。
好きな作家で、初版を持っていても、後に発売された「愛蔵版」の装釘が気に入れば買うこともあるし、通常版と同時発売の「特装版」があればそちらを選ぶこともなくはない。そもそも、モノとしての本の装釘には常々関心がある。

ただ、今はこの出版社のサイトに「特装版」や「限定版」という文言が見られるが、手元にある現物の初版本にはそれらの表記は見当たらない。
営業上の理由から出版後わずか二か月で値下げすることにし、そのために初版を後から「限定特装版」と称して絶版。新装版に替えたのだろう。
小さな新しい出版社の志に期待したい。ソロバン勘定も大切だ。ただ、再販制度を背景に裏ワザを駆使するのはいいけれど、装釘も経営もちょっと独りよがり? 本の内容は興味深いのに。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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