フットハットがゆく【270】「時間」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2016年5月1日号の掲載記事です。
時間
4月に47歳になりましたが、いまだに、自分はバカだな、と思うことが多々あります。
腕時計の裏に『30m』と表示のあるものは、それをつけて30mの水にもぐっても大丈夫、という意味だと思っていました。
さかのぼること4年ほど前にスーツを新調したときに、それに合う腕時計を買おうと思い、僕にしてはかなり奮発した7万円くらいの、アルマーニの黒のかっこいいやつを買いました。
冠婚葬祭びしっと決まる、シンプルなれど高級なデザインのアナログウォッチ。
ちょうどその頃人気のイケメンタレントが宣伝していたらしいですが、それは後から知りました。
いいものを身につけると、身も心も引き締まり、自分の格が上がったような気分になります。
知り合いに、「あ、アルマーニの新しいやつですね!」といわれ、ニヤッとして、「わかる?」なんて言ったりして。
7万円の腕時計で有頂天になる僕の器もたかが知れておりますが、とにかくその時計を愛用しておりましたところ、ある日12時半をさしたまま、ピタッと止まってしまいました。
2年くらいは使っていましたので、電池切れかと思い、電池交換に行かねば、行かねばと思っている間に2年くらい経ちました。
腕時計が無くても、携帯で時間は分かるので大丈夫なのですが、カメラマンの仕事をしているときに、カメラをかついだまま携帯をポケットから出して時間を確認するのは非常に面倒なので、1000円くらいのデジタル腕時計を買い、ずっとそれをしておりました。
そんな時、20代の若い知人の結婚式に招かれまして、スーツを着てネクタイを締めて、さぁ鏡を見るとその腕時計があまりに安っぽく…あわてて、12時半で止まったままのアルマーニに付け替えて会場に出かけました。
ホテルのチャペル、集合時間は12時45分。到着して腕時計を見ますと12時半…いや、ちがうちがう、これはうその時間だから、ポッケから携帯を出して見直したら12時15分。
30分も前についてしまい、知った人は誰もおらず…。仕方がないのでしばしホテル内をうろついておりました。
ふと、時間が気になって腕時計を見たら12時半だったので、まだ余裕があるなとぶらぶらしておりまして、いや、ちがうちがう、と携帯を見ましたら、12時44分!
あわててチャペル前に戻りましたら、もう人がたくさん集まっていて、僕は一番最後に遅れて来た人、みたいになりました。
いや、ちがうちがう、一番最初に来ていたのに、時計が12時半で止まっているから! とは誰にも言えず…。
最近その腕時計を修理屋に持っていき、「電池を交換してほしい」といいましたら、若い店員さんが2秒見て「水が入ってサビていますね」と言いました。
針のところに青サビがあり、技術者はそれを見逃しませんでした。
「水が入るようなことをしましたか?」と聞かれ、
「確かに腕時計をしたままシャワーを浴びたり風呂に入ったりしましたが、でも裏にちゃんと30mって書いてあるので、防水ですよね?」
「30mというのは3気圧防水という意味で、雨水が少しかかる程度は大丈夫、というレベルです」
「いやぁ、30mの深さまで水にもぐっても大丈夫という意味なんだと思っていました」と言う僕に、冷ややかな笑みを向ける若い店員。
水にもぐるなら20気圧防水くらいが必要です。それでも風呂などは、温度で部品が変形して故障の原因となるのでおすすめできません、とのことでした。
アルマーニの時計は結局修理代4万円近くの見積もり、別の時計を買うか迷いましたが、今後は腕時計をつけて風呂には入らんぞ! という教訓のため、修理を選択しました…。
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