フットハットがゆく【250】「金生」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【250】「金生」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2014年9月16日号の掲載記事です。

 

金生

フッと思ったこと、ハッと気づいたことを書き続けて250回目になりました。
初期の頃は月に2回ペース、最近は月1回で書いています。
あしかけ15年ほど書いているのですが、おつきあいいただいている読者や編集者の皆様に感謝しております。

さて最近、ちょっとかわった現象が身に起こっていまして、「なぜか古い硬貨がちょくちょく回ってくる」という、どうでもいいといえばどうでもいいのですが、気になるといえば気になります。
例えば、僕は昭和44年(1969年)生まれなのですが、その昭和44年と書かれた百円玉が自販機のおつりで出てきまして、その百円玉は僕と同い年なわけですから、造幣局で製造されて、45年間どこかをさまよって、そして今僕に巡り会ったわけですから、その45年の軌跡を想像すると、次にはい、ぽい、とは使えず、サイフの中にそのまま残っています。

古い硬貨がいったん気になり始めると、次に何かのおつりをもらったときに、ついつい年号を見てしまい、今サイフに、昭和44年の五円玉、同じく十円玉、昭和42年の五十円玉、同じく百円玉、昭和33年の五円玉、昭和29年の十円玉、などが入っています。
昭和33年の五円玉は、僕より11も年上で、56歳なわけで、見た感じかなり威圧感がありますね。
56年間、人の手あかをすり続けた独特の光沢というか、少し文字のデザインも微妙に違うというか、とにかく古〜い感じをかもし出しています。
一瞬の見た目で、あ、この五円玉は年期が入っている!と分かる存在感です。
でもたまに、真っ黒に汚れた五円玉があって、わぁ古そうだなと思って年号を見ると平成の物だったりして、若いのに苦労したんだな…と想像したりします。

さて、昭和29年の十円玉ですが、これは明らかに他の十円玉と外見が違います。
ふちにギザギザがついている、いわゆるギザ十というやつです。調べると、ギザ十は昭和26年から昭和33年(31年をのぞく)に発行されたそうです。
古くて、発行枚数も少なく、デザインも他の十円と違うことから、ギザ十はコイン収集家の間では十円以上で取引され、特に発行数が少なかった昭和33年のギザ十や、金が混入していると噂のたった昭和26年のギザ十は高く売れる!という話がまことしやかに流れた時もありました。
実際には噂ほどの価値はなく、十円玉はあくまで十円だそうですが、それでもまぁ、ギザ十をみつけたらお守りがわりにサイフに入れておく人はいまだに多いようで、僕もその一人です。
僕の持っている昭和29年(1954年)のギザ十は、ギザ十の中では特に発行枚数も多く、珍しくないそうですが、おん歳、六十歳と思うと、サイフの中に鎮座いただくだけで何となくわくわくします。

小銭入れの中で、六十歳の大老を中心に五十代、四十代のベテラン、若いペーペーから、歳の割に波瀾万丈な奴などいて、自分たちの人生ならぬ金生を、わいわい、じゃらじゃらと語り合っているのかなぁ、と想像しつつ、結局はいずれ使ってしまうのですが…。

 

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