フットハットがゆく【168】「知っとん?1」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【168】「知っとん?1」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年11月1日号の掲載記事です。

知っとん?1

みんな知っとん?…今、遺伝子工学が凄いことになってきてるん。
このままいくと、こんな未来がやってくる…。

虫歯が痛い…。

キリキリ痛む。また歯医者に行かなければならないか…?
そんなときは、ネズミの遺伝子を人間に組み込んでみよう。
ネズミは、げっ歯類といい、一生歯が伸び続ける。
人間でいえば、髪の毛や爪が伸びるような感覚である。
このネズミ歯遺伝子をいただけば、人間の歯もどんどん伸びて、虫歯なんかも再生されていくのである。
しかしこうなると、歯医者は失業…と思われるがご心配なく。
歯が伸び続けると人類みな明石家さんまのようになってしまうから…やはり歯を削らなければならない。
それには理髪店ならぬ理歯店が必要ではないか。
歯医者さんはその技術を利用して、歯を削るお仕事に就けばいいのである。
「いらっしゃい、今日はどんな歯形に削りましょう?」
「そうね、上戸彩ちゃんみたいな歯並びがいいわ。コーティングもよろしくね」
てな具合である。
多分20年後くらいにはこうなる。
ネズミよありがとう。

遺伝子工学の進歩で転職を余儀なくされるのは、他にもいる。
例えば私立探偵である。
そう、犬の遺伝子をもらってみよう。
犬の嗅覚は大雑把にいってだいたい人間の100万倍といわれる。
はい、これで夫婦間の浮気は一発でバレます。
そして誰もが警察犬のように体臭をたよりに追跡調査も可能。
100万倍の嗅覚により人類みなシャーロック・ホームズとなり、私立探偵は失業してしまうでしょう。
最近は食品に不純物が混じることが多いが、そんなものは匂いですぐ分かる。
産地の偽装だって、使い回しの材料だって100万倍の匂いでバレバレである。
犬の嗅覚のおかげで、食品の安全と健全が完璧に守られるのは、多分25年後くらいだろう。犬よありがとう。

30年後のオリンピックなんかエラいことになる。
ノミの跳躍力をもらった人は30階建てのビルだってひとっ飛びだし、アリのパワーをもらった人はダンプカーだって持ち上げられる。
ただ、100m走の選手は、どなたの遺伝子をもらうか少し迷うだろう。
普通ならチーターを思いつくが、トカゲのあのすばしっこさも捨てがたい。
競泳の選手はこれも種目によって動物が違う。
平泳ぎはカエルでOK。バタフライはドルフィンキックのイルカだろう。
まちがっても蝶々(バタフライ)の遺伝子をもらってはいけません、あれは泳げないから。
では背泳ぎはどうする?…動物界で背泳ぎ上手といえばラッコだが、あれはあまり速く泳ぐというイメージではないので競泳向きではないナ…。

最近は動物愛護という観点から、毛皮のコートを着ると非難されたりもするが、どうしても着たいという人は、ミンクの遺伝子をもらおう。
全身頭の先から足の先までふさふさの毛皮だ。寝る時に布団もいらないし、冬場だって裸で外に出られる。
男性にはやはりワニ皮、蛇革がお薦めだ。
なんやかやで、きっと35年後には人間の衣服というものがなくなるだろう。

ということで、秋の夜長の未来妄想でした…。

シートン 1860〜1946 アメリカの作家。野生動物の生態を観察、研究。

シートン 1860〜1946 アメリカの作家。野生動物の生態を観察、研究。

 

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