フットハットがゆく【156】「講論節」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【156】「講論節」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年5月1日号の掲載記事です。

講論節(こうろんぶし)

みなさんは『卵ゲーム』というのをご存知だろうか?
…たぶん知らないと思う。
なぜなら僕が考えて、今まで人に話したことがないからである。
『卵ゲーム』のルールはいたって簡単。
それは、『卵について延々語ることができるか?』というだけである。
ここでゲームをよりシンプルにするために、もう一つだけ条件を加えたい。
それは、『卵は白色でニワトリのもの、割ってはいけない』である。それではゲームを始めよう…。

10年以上前の知り合いの話だ。
彼はかつて画家を目指して芸術学校に通っていた。
ある日学校の課題で、「自分の好きなものをデッサンする」というテーマが与えられた。
そこで彼は、「最もシンプルで難しい」とされる「白い卵」を描くことにした。
彼は来る日も来る日も、スケッチブックにコンテで卵を描いた。
白い背景に白い卵、あの曲線をどう表現するか、あの殻のザラザラ感をどう表現するか?
次第に彼はノイローゼ状態になり、幻覚なのか卵の中の黄身まで透けて見えるようになり、さらにはやがて生まれ来るヒヨコとそれが成長したニワトリの絵まで描いて抽象的な絵が出来上がったという。
しかしこれはデッサンではないと気づき、今度は水墨画の領域で一発勝負の一筆書きデッサンにたどり着いた。
そしてそれを何百枚も描いた結果、最後に気に入った一枚を提出した。
案の定、点数は低く、それ以来彼は画家を目指すのをやめたという…。

似たような話は写真家にもいえる。
写真の技術には様々あるが、基本は構図とライティング(照明)である。
その基本練習としてモノクロフィルムで、白い背景に白いティッシュや白い卵を置いて撮ったりするのである。
もちろん卵を割ったり、加工したりしてはいけない。
この練習でも、行き詰まってしまう人が多い。
それほど卵とは難しい存在なのだ。
アーティストの卵を殺すのも、また卵なのである。

このように卵を前にすると、その人の真の実力が分かる。
ごまかしが利かないのである。
そしてどんな職業、分野の人でも卵を相手に訓練を行うことができる。
接客業の人は、卵を眼前に置いてその長所を大いに語ってみよう。
卵に対して陳腐な褒め言葉しか思い浮かばないような人は、接客業に向かない。
「部下の叱り方」で悩んでいる中間管理職の人は、まずは卵を叱ってみよう。
とことん叱ってみよう。
そしてそのあとは、仕事を忘れて卵相手に酒を飲み交わすのもいい。
卵相手にそれくらいできなければ、人間相手に出世の望みはない。

さぁ、そうこうするうちに紙面が埋まってきた。
今回の『卵ゲーム』で紙面を埋め切った僕はゲームの勝利者である。
そしてこのようなシュールな講論節(こうろんぶし)に付き合いいただいた方々、ありがとうございました。
しかし、このような一見変人じみた発想が、新しい大陸を発見したりするものであるということは、「コロンブスの卵」で証明されている。
ただし、彼は卵を割って立てたので、僕の中ではルール違反なのだが…。

 

コロンブス 1451~1506 「コロンブスの卵」で有名なイタリアの航海者。1492年、新大陸を発見した。

コロンブス 1451~1506 「コロンブスの卵」で有名なイタリアの航海者。1492年、新大陸を発見した。

 

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