フットハットがゆく【132】「も~もたんだろう!?」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年5月1日号の掲載記事です。
も~もたんだろう!?
4月の後半に、京都府南部の某市で市議会選挙が行われたので応援に行ってきた。
これは宗教や政治的なからみではなく、単に知人が頑張っているので協力したのだ。
一週間毎日、朝から晩まで選挙事務所に入った。まぁ、僕が政治の話をしても面白くないので、選挙で経験したプチネタを書く。
桃太郎…
選挙運動のひとつに『桃太郎』というものがある。
はちまきをした候補者を先頭に、候補者名の入った旗や幟(のぼり)を持った運動員がかたまって街頭を練り歩くことである。
候補者が桃太郎で、運動員が犬、猿、キジなのである。
ちなみにきびだんごは与えられず、すべてボランティアである。
あと、桃太郎は勇ましく鬼退治に行くのが普通だが、選挙運動中の桃太郎は満面のスマイルで有権者に頭を下げ、握手攻撃をする。
敵といえば他の候補者ということになるが、建前上は「おたがい頑張りましょう!」「ご検討をお祈りします!」と讃え合う。
選挙中は憎き敵でも、当選すれば協力して議会を盛り上げなければならないのである。
朝立ち…
「朝立ち用にユンケルを飲め!」といわれるとドキッとするが、『朝立ち』も選挙運動のひとつで、朝の出勤時間に人の多く集まる場所(駅など)で出勤途中の有権者に向けて演説活動をすることをいう。
だいたい人が増え始める7時ごろから行う。
候補者の名前を連呼しながら「おはようございます!」「いってらっしゃい!」などと叫ぶのが普通。
全く知らない人に笑顔でいってらっしゃいと叫ぶのは、最初は勇気がいる。
眠い顔で挨拶しても逆にイメージが悪いので、ユンケル飲んでしゃきっと頑張るのである。
カラス…
選挙カーから候補者の応援アナウンスをする女性のことウグイス嬢というが、それの男版が『カラス』である。
僕もカラスとして、毎日選挙カーに乗った。
普通、アナウンスのプロが雇われることが多いが、うちの事務所は知人やご近所さんなど全員ボランティアで行われた。
だいたい2、3人で乗り込み、交代でアナウンスを行う。
アナウンスを行わない者は窓から手を出し、道行く人に笑顔で手を振るのだ。
人気のない住宅街に入っても、どこで誰が見ているか分からないので、ずっと手を振り続ける。
それを一日十時間も続けていると、だんだんと麻痺してくる。
直接票に関係ない子供たちにも手を振るのはいいとして、しまいには犬や猫にも手を降り始める。
最後の方はヘトヘトになり、ふと目が合ったポスターにまで手を振る始末…。
とっぷりと日が暮れてもまだ選挙活動は続く。
垣根の向こうの窓から手を振ってくれる人がいたので、「ありがとうございます!」とよりいっそう手を振って応えた。
すると向こうも激しく手を振ってくれるので感激してぺこぺこ頭を下げたら、向こうも頭を下げている。
よく見たらそれは窓ガラスに映った自分であった…。
そんなこんなで、毎日数時間の睡眠、体がも~もたんだろうというところまで頑張った結果、無事応援している人が当選したのでよかった、よかった。
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