自給自足の山里から【127】「百姓体験居候」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【127】「百姓体験居候」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年8月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

百姓体験居候

ヘリが上空をとび、老猫を葬る

「かなかな、かなかな」とひぐらし。パン小屋から「お父さん! くるみ(猫)が!」のあい(19歳)の悲鳴。石窯の前で、亡骸を抱いて涙ボロボロ。11歳の時もらってきた。いつも一緒に寝て、昨冬病気の時、獣医に見放されるが必死に看病し治る。今春4匹子を産む。しかし2匹死んだ。弱ってはいたが、まだ、子に乳をやっていた。普通なら盛夏なのに、雨降に続き、トマトはダメになり、稲の生育も心配である。生きとし生けるものに幸いを!
家の前の果樹園(梅・柿・栗)に穴を掘り葬る。鮮やかな橙色ののうぜんかつらをはじめ、白・黄・赤などの花たちにおおわれ、あの世でお腹空かせないようにとにぼしを添える。墓石に「大好き」と! すぐ上空を但馬空港で行方不明のヘリを探すヘリコプターがブンブンと飛び回る。

あい、神戸でおしゃべり講演す

3人娘の中で一番おしゃべりなあいが、昨12月24日、神戸で“自給自足の山里に暮らして”と題して講演。「うちは百姓、百姓仕事は身体全体を動かすこと、瞳と瞳で語り合える社会にしなくちゃ、何か行動を起こさないと何も変わらない」など2時間。「聴衆を前に全く自然体で、初々しく率直で、それでいて人としての強さをしっかり持っていることが分かる話しぶりでした。あいさんに静かな衝撃を受けた一日でした」と大野貞枝さん。好評でこの話が冊子に。読んでやってください。(注①)
双子のれい(19歳)は昨11月から中南米のエルサルドルの山村で暮らしている。「最初は不安もあったんだけど、たくさんステキな人やエルサルの国が変わろうとしていることが、私にとってパワーになり、毎日わくわくで楽しいです」と便り届く。秋にはあいも合流して、お互いの20歳の誕生を祝うという。

若者の田で、田草たち笑う

今、あいと、昨12月に10ヵ月の中南米の旅から帰ったちえ(23歳)が農場を仕切る。
「百姓体験居候」が断えない。7月だけでも韓国大学生9人、日本学生2人、非正規労働者19人(女10人、男20人)。
食事をつくり、何かと世話する娘たちは大変。「韓国の学生元気だったなぁ。女は炊事し、仕事もできよか、男はなぁ」とぼやきつつも、笑顔で接している。(と思う)
私は、田植えの終わった田んぼをはいつくばってる田草とり、鎌を手に畦草刈りに居候たちと泥と汗にまみれている。私の半分も動けない。若者の歩いた田を見ると、田草たち笑っている。二度手間に疲れる。畦草刈っていて「大森さん! 指が指が!」と叫ぶ上野君(29歳)。「指とんだのか!」と見るとカスリ傷。苦笑しながら「これをぬって」とよもぎを渡すあい。

ヘタレで申し訳ありません

「大森さんの本(注2)を拝読。体験させてください。20年フリーのコマーシャルカメラマンし、資本主との末端で『この商品を買え買え』と煽ってきたが、こんなウソついても仕方ないと、現在は直耕生活に力を注ぎたい」との岩さん(40歳)は、7日の予定が3日目に「ヘタレで申し訳ありません」と引きあげる。
「大森さんの本に出会いました。読んで自分の生き方迷う中、原点に戻って考え直す必要があるように感じ、今人生の分岐点で、今後目指したい生き方と考えます」との康弘さん(40歳)は、2日目にして朝起きられず、「傍観するのと実際するのとは大きく違う。来る者拒まず、去る者を追わず、いつも開かれています。とても偉大です」なんて言って、これまた、1週間の予定が3日目で帰る。
予定通り1ヵ月いた成相君(26歳)は「ここへ来て、毎日が勉強。ここでは全てが循環しているので1年2年先ではなく、10年~100年先続く、続けられる暮らしができる。ほとんどが手作業、機械を使わないが、ひとつひとつ意味があると思います。世界は戦争や貧国、環境破壊などありとあらゆる問題があります。それらに対してポジティブな行動はあ~す農場・大森ファミリーだと思う」と、自宅近くで畑借りて野菜つくり、パン焼きしている。
また、「たかが1泊2日しか体験していませんが、何か大きく変化したものを感じます。大森ファミリーの逞しさ、人間らしさ、純粋さ、本来あるもの・・・多くの人が忘れてしまっているもの(私も含めて)を取り戻すべきだし、取り戻したいと願っていることでしょう。その契機づくりに私共が関わっていこうとしています」(NPO・OLC福本さん)。
ケガした上野君は「6日間、毎日あいちゃんがつくってくれた旨い飯で頑張れました。これから同じ“自給自足”するにあたり、よい影響をもらいました。大森さんには、時に厳しく、時に優しく接していただき、貴重なお話も聞けて、本当によい研修ができました。また来ます」と元気に帰る。
時折やってきていた片山君(32歳)がひょっこり。すっかり日焼けし、身もしまり百姓の雰囲気。「4月から岡山の県北の10戸の年寄りばかりの山村に移住。忘れた田畑おこし、薪で自給自足の生活です」との笑顔がうれしい。

私は、若者と共に汗を流しながら、私の数多くの失敗―社会変革(学生・労働・ブラクなど)によって、山村で2度借家追われ、子の大ヤケド、離婚・稲ならぬ稗田、水田ならぬ乾田、鶏豚山羊らの死など―語る。6人の子どもたちも種々の失敗し育つ。
こうあればうまくいくとか、どうしたら失敗しないかということばかり考えず(今の教育)、あ~す農場での「居候」の失敗にめげないことを願う。来訪された作家の鎌田慧さんは「救いを求めていく場」と、また、但馬出身の言語学の田中克彦さんは「かけ込み寺」と。

(注1)「自給自足の山村暮らし」大森あい著/神戸学生青年センター出版部発行℡078・851・2760 FAX078・821・5868/定価336円(税込)
あ~す農場で扱っています。

(注2)「自給自足の山里から」大森昌也著/北斗出版発行/1,680円(税込)あ~す農場に注文ください。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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