京都南部のあじさい寺「岩船寺」は三重塔が美しい穴場の花の寺
今は京都にたくさんあるあじさいスポットですが、中でも古くから知られるのは岩船寺です。
岩船寺は、木津川市加茂町の奈良県との府県境のすぐ近くにある真言律宗の寺院です。
京都南部の南山城エリアを代表するあじさいの名所として、「あじさい寺」とも呼ばれます。
岩船寺のあじさい
岩船寺は京都最古の「あじさい寺」
1936年から始まったあじさいの植栽
京都に数あるあじさいスポットの中でも、岩船寺は最も古い名所のひとつです。
全国の著名な「あじさい寺」60箇所にヒアリングを行った研究によると、あじさいの植栽を始めた時期が最も古いのは1870年代末の長法寺(岡山県津山市)でした。長法寺に次ぐのが、1936年にあじさいを植栽した岩船寺です。
京都最古どころか、日本でも一二を争う歴史あるあじさいスポットです。有名な鎌倉の明月院でに1951年ごろなので、それより古いあじさい寺が岩船寺なのです。
それでもまだあじさいが植えられはじめて以来、100年も経っていません。
長い岩船寺の歴史から見ると、「あじさい寺」になったのはごく最近のことです。
参考:大澤啓志・荒井恵璃子「我が国におけるアジサイの植栽に対する嗜好の時代変遷」
鑑賞目的ではなかったあじさい
岩船寺のあじさいは、もともとは花を観賞する目的ではなく、葉が多いあじさいが荒れた境内を緑化するのにぴったりだったために選ばれました。
もともと日本では、たくさんのあじさいの群落を鑑賞するという習慣はありませんでした。
今のようにあじさいを楽しむようになったのは、昭和の終わりごろからと近年になってからのことです。
当初は緑化目的だった岩船寺のあじさいですが、山の谷あいにあり湿度が高めの気候があじさいにぴったりでどんどん増えていきました。
やがてあじさいスポットとして「あじさい寺」とも呼ばれるようになりました。
今はあじさいシーズンになると多くの参拝者で岩船寺は賑わいます。
2007年に木津町、山城町と合併して木津川市となりましたが、岩船寺のある加茂町の「町の花」は1986年にあじさいが選ばれました。もちろん、岩船寺のあじさいを念頭において選定したのでしょう。
今は旧加茂町内にも岩船寺以外にも恭仁宮跡などのあじさいスポットがあります。
なお、木津川市の花は2007年にコスモスになりました。
関西花の寺二十五カ所に選ばれるあじさいの名所
関西花の寺二十五カ所の第15番札所
岩船寺は、関西花の寺二十五カ所の第15番札所です。その名のとおり、関西2府4県の様々な花で有名なお寺が集まった霊場です。
25ある札所ですが、あじさいメインで関西花の寺二十五カ所に入っている京都の寺院は、他に福知山の丹州観音寺があるだけです。
近隣の浄瑠璃寺も第16番札所
「関西花の寺二十五カ所霊場会」は、1993年に設立されました。
第一番札所である丹州観音寺の呼びかけにより結成されました。
岩船寺の近隣にある浄瑠璃寺も第16番札所として入っています。浄瑠璃寺は、アセビと紅葉で選定されています。
あじさいとはシーズンがかぶりませんが、岩船寺を訪れた際は、ぜひ浄瑠璃寺も訪れてください。
地植えのあじさいが大半ですが、鉢植えのあじさいも少なからず並んでいます。
色とりどりのあじさいがとてもきれいです。
三重塔をバックにあじさいの絵になる景色
重要文化財の三重塔
境内一円であじさいが美しい岩船寺ですが、中でも見事なのが三重塔の前です。
嘉吉2年(1442年)建立の重要文化財である三重塔は、均整のとれた美しい姿で知られます。
朱塗りの三重塔の周囲は青々とした緑で覆われています。
その三重塔をバックに咲くあじさいは、どこから見ても絵になります。さすが「あじさい寺」です。
いろんな方向、角度からあじさいを楽しみましょう。
特にしゃがんで低い位置から見上げたアングルがおすすめです。
屋根の四隅を要チェック
三重塔の要チェックポイントは、屋根の四隅にいる隅鬼です。
垂木の下には、ユーモラスな顔をした隅鬼さんが隠れています。ぜひ近づいて探してみてください。
本堂の軒先にも、鉢植えのあじさいが並んでいます。
鉢植え用の小ぶりな品種で、繊細な花を咲かせています。
花手水風の花水鉢
あじさいの花手水と三重塔
2021年には、あじさいの花を生けた水鉢が設置されました。
手水鉢ではありませんが、最近京都でよく見かける花手水(はなちょうず)のようです。
手水鉢の役割があるわけではなく、本来は睡蓮用の水鉢です。
美しき均整の取れた姿の三重塔バックに、花手水風の鉢が映えます。
2022年からはさらにあじさいの花手水が増設されています。
岩船寺について
岩船寺とは
奈良の影響を強く受けた寺院
岩船寺は、天平元年(729年)に行基によって開かれたと伝えられる真言律宗の古寺です。
京都府内でも南端部にあたり、文化的にはむしろ奈良の匂いが色濃いところです。
徒歩20分ほどの岩船寺口というバス停は、奈良県内に位置します。岩船寺は京都の観光ガイドよりも奈良の観光ガイドに取り上げられることが多いくらいです。
嘉吉2年(1442年)に建立された三重塔は重要文化財に指定されており、京都を代表する三重塔として知られます。
本尊の阿弥陀如来像も定朝様式の名品として重要文化財に指定されています。天慶9年(946年)という記銘は、現存の阿弥陀如来像でも最古のものです。
かつては境内に39坊も立ち並んでいましたが承久の乱で焼失し、江戸時代には荒廃していました。
明治維新後には廃仏毀釈によって無住の寺院となり、本堂や三重塔も荒れ果てていました。
昭和に入ってようやく復興が進み、「花の寺」として多くの参拝者を集めるようになりました。
あじさいが植えられはじめたのも、岩船寺の復興がはじまった1936年からです
石仏で知られる当尾の里と浄瑠璃寺
岩船寺のある当尾(とうの)の里は、石仏の里としても知られます。
田園の中を歩けば各所で神々しいというよりも、かわいらしい石仏たちに出会うことができます。
近隣には、九体阿弥陀如来像など多くの国宝指定の仏像や建造物、特別名勝の庭園で知られる浄瑠璃寺があります。
是非岩船寺とあわせて訪ねてみましょう。
拝観情報
鎌倉時代に作られた十三重石塔、五輪塔も重要文化財です。
十三重石塔の近くにある石室不動明王も重要文化財に指定されています。
石室内には、正和元年(1312年)4月6日造立の不動明王石像が祀られています。
石室の周囲はあじさいで美しく彩られています。
2024年は4月27日(土)~7月7日(日)の土日祝限定で、「お茶の京都 木津川古寺巡礼バス」が運行されます。
JR奈良駅→近鉄奈良駅→浄瑠璃寺→岩船寺→浄瑠璃寺→JR加茂駅→岡崎(海住山寺最寄り)を結びます。
岩船寺前や浄瑠璃寺前には、季節の野菜や手作りお菓子などを販売する無人販売所が並んでいます。
当尾の無人販売所は、商品が置かれているのではなく吊るされているのが特徴です。
生野菜や干野菜、漬物、餅、せんべいなど多彩な商品が並んでいます。
だいたいが100円ととってもリーズナブルです。他エリアの無人販売所よりも安いです。
岩船寺前の参道にもあるので、岩船寺のあじさいを訪れた際には、ぜひ無人販売所ものぞいてみてください。
拝観時間 | 3月~11月 8:30~17:00(受付は16:45まで) 12月~2月 9:00~16:00(受付は15:45まで) |
拝観料 | 大人 500円 中高生 400円 小学生 200円 |
TEL | 0774-76-3390 |
住所 | 木津川市加茂町岩船上ノ門43 |
アクセス | 「加茂」からバスで16分 |
公式ホームページ:岩船寺/公式HP