エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【328】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【328】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2015年8月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

『小島信夫の読んだ本』と『小島信夫の書き込み本を読む』という本がある。
昭和女子大学図書館が「小島信夫文庫」として所蔵する原稿や創作ノート、蔵書など関係資料の目録を二冊に分けて編集、二〇一二、一三年に水声社が刊行したものだ。
A4判と判型は大きいが、百十ページほどの薄い本で、どちらも税別で五千円もする。しかも内容は、前者が全体の半分ほどが蔵書目録、後者が全体の三分の一ほどが関係資料目録。
つまり、ページをめくってもめくっても、無味乾燥なリストが続くだけだ(そう、小島信夫に興味のない人には)。
しかし、ペンネームに「信夫」とつけるほどこの小説家のファンである私にとって、この蔵書目録は彼の書斎の本棚を眺めるような楽しさを味わうことができる。
もっとも、関係資料目録については、何が所蔵されているかが記載されているだけなので、整理番号「メモ1」・枚数・大きさ=何センチ×何センチ、「写真」・人物「小島信夫ほか男性三名」・枚数・大きさ・モノクロなどと、ひたすら文字や数字だけで記されたリストを眺めて「萌える」なんてことは、さすがの私でもない(笑)。
目録が主であるこれらの本に掲載された文章はあまり多くないが、小島信夫が蔵書に書き込んだ具体例を取り上げた論考は、愛読者にとっては彼の頭の中を覗き見するようで、たまらない。

ところで、小島信夫に関しては、こんな(ほろ苦い? 笑える?)思い出がある。
まだ若かったころ、ある女性とデートをしていたときに、たまたま古本屋の前を通りかかったので「ちょっとだけ、いい?」と中へ入った。
そこでなんと、長年探していた小島信夫全集全六巻を見つけたのだ。
迷わず購入。嬉しくて舞い上がっていた私は、あろうことか、デートをそこ(古本屋の前!)でさっさと切り上げ、大事な本を持ち帰るべく、両手に抱えて一人自宅へ向けタクシーに颯爽と乗り込んだのであった……。

小島信夫は今年、生誕百年を迎えた。
今年の二月には、既刊単著には未収録の評論・随筆を集めた新刊『風の吹き抜ける部屋』(幻戯書房)が出版された。
まだ、あるでしょ? 未収録作品。出版希望。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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