自給自足の山里から【142】「自然に勝とうとせずに」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【142】「自然に勝とうとせずに」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年12月1日号の掲載記事です。

大森好美さんの執筆です。

自然に勝とうとせずに

夫・ケンタが怪我

山の木々は、紅、黄色に美しく染まり、早いものはすでに散り、厳しい冬に備え冬芽をつけています。
道路脇に落ち葉がどんどん積もっていくのを眺め、「これで堆肥を作って田畑に撒いてやりたいなぁ、けれど今年は手が回らないなぁ」と思い、通り過ぎます。

3月末、夫のケンタさんがバイト先の牛の屠殺場での事故で、頭に怪我をして救急車で運ばれました。
牛を解体する作業中、枝肉を吊った吊り具と枝肉がレールから外れ落ちてきて、頭を直撃したのです。7針縫う怪我を負い、検査の結果は何もなく、1週間後抜糸をしました。
けれど、身体は本調子でなく、おかしいと思いながらも作業を続けていました。

1ヵ月半後、とうとうふらつきでまっすぐ歩けなくなり、めまいと苦しい頭痛に終始襲われ、寝込み動けなくなってしまったのです。
吊り具(約7kg)と枝肉(約400kg)が頭を直撃しているのです。何もないわけないのです。「ムチ打ち」で治療には時間がかかると診断されました。

結の繋がりを感じ

ケンタさんが動けないとなると・・・。さぁ大変! 田んぼ、畑、大工仕事、薪作り・・・、ケンタさんに頼っていた仕事はたくさんあります。薪は蓄えでなんとか、大工仕事はあきらめて、けれど田んぼ、畑で食べる分くらいは作らないと。
ちょうど田んぼの作業が始まる時期でした。田植えの準備を進めていかなければいけません。代わりに私がやろうにも、田んぼはほとんどケンタさん任せだったので、今何をしなければいけないのか、次何をしなければいけないのか、段取りができないのです。
そんな中、同じ村に住む家族、父弟妹たちが心配して助けてくれました。子供の頃から百姓仕事をこなしてきているのです。本当に頼りになり、頼もしく、助けられました。家族の絆を感じるのはもちろん、結のような繋がりで繋がっているのを感じ、感謝とありがたさで胸がいっぱいになりました。

自然に勝とうとせずに・・・

今年の気候は、春が寒くてその後梅雨で長雨が続き、梅雨が明けたと思えば雨が降らない晴れ続きの猛暑、残暑も長引き、秋が短く、もう冬の訪れを感じさせられます。
作物の出来は例年にない不作でしたが、食べるのに困ることはありませんでした。食べるのに困らないのは、本当に強いことだと思います。異常気象は、山の食べ物も不作にしました。
全国的に、山の獣が食べ物を求め、人里に下りてくるのが見られ、ニュースになりました。こちらでも、あっちこっちの栗の木に熊棚ができました。熊はまだいいのです。ちゃんと遭遇しないように気を付ければいいのですから。
猪が一番厄介なのです。猪は田んぼ、畑に入って一晩でめちゃくちゃに荒らします。今年は特に、山に食べ物がないため、田んぼ、畑をぐる~っと回って弱いところを探し当て、ネットを食い破り、トタンの柵をへし曲げ入ってきます。
その執念、野生動物の生きる力、迫力はたった1頭が一晩で荒らした田んぼ、畑を見て伝わってきます。恐怖を感じました。

田んぼ、畑を守るため、こんなのに勝たなきゃいけないのか・・・、怖い、私なんかでは勝てない、けどケンタさんは頼れない、どうしよう・・・と、絶望的な気持に陥りました。
ミミズ、沢蟹を探すためあっちこっち掘りまくってめちゃくちゃ。稲を踏みつぶし、田んぼの中はミステリーサークルがあちこちできているよう。
かぼちゃ畑に入られた時は、かぼちゃは食べずミミズを探して掘りまくって、かぼちゃでサッカーでもしたように、あっちこっち飛ばされ泥だらけ。
一度入って食べ物があると分かると、繰り返し入ってきます。その度に柵の補強をしてのイタチごっこ。
そんな中、ケンタさんがひと言「あいつらは自然だからね、勝とうと思ったら相当じゃないと」。それを聞いて、ああそうか、と納得しました。
私は自然を押し曲げて勝とうとするようなことを考えていたのかと。猪を恐れてはいけない、立ち向かわなきゃと思い込み、けれどそんなことはできないからどうしようと悩んでいました。
無理をせず、私のできることをしよう。夜中1時頃、猪の出没する時間帯に爆竹を鳴らしに田んぼに行きます。他にも夜中ラジオを鳴らしっぱなしにしたり、家族に手伝ってもらって柵をより強固なものに直したりし、なんとか田んぼ、畑をまもることができ、実りの秋を迎えることができました。

じっちゃんの真似して、鋸で得意

親が奮闘している間にも、子どもは大きくなっていきます。みのり(3歳)となお(1歳)は、夏の間中、朝起きたら服を脱ぎ、全裸になって遊んでいました。
たらいに水を張って水遊び。全裸で走り回って、にぎやかな歓声が山に響きます。お客さんが来て、びっくり。
寒くないんか、お尻痛くないんか、子どもは元気だなぁと感心して帰っていきます。山でのびのび育ったらこうなるのかと、感心して帰っていく人もいます。それは誤解ですから!
弟・げんの子ども、つくし(6歳)とすぎな(3歳)は服を着ていますから。

最近、みのりははさみや鋸を出してきて、庭木や庭の花を得意げにチョキチョキ、ギコギコ。怒ると「だってな、はたけにひがあたらんからな」とじっちゃんの真似をして得意げです。
じっちゃんは、この夏ずっと気になっていた家周りの放置され荒れた杉林を手に入れることができました。木を1本ずつ手鋸で切り倒していたのを、みのりはじ~っと見ていました。
みのりが通った後は、もうめちゃくちゃ。家にも小さな猪がいるようです。一方、なおは小さいながらもお手伝い。里芋の仕分けや、じゃがいもの芽かきを手伝ってくれます。
けれど、台所でのお手伝いは苦手です。何とか頼んで渡すと、とりあえず口に入れて食べています。食べられるものができると、食べたくてしょうがない食いしん坊です。

ケンタさんが動けなくなってから、子どものこと、家のこと、田んぼ、畑のことを夫婦で話し合って取組むようになりました。
今までは、子どもと家のことは私が、それ以外はケンタさんが。子どもが小さかったので、田んぼ、畑に連れて行くことができなかったのもあるのですが。なんとなく分かれていて、あまり一緒に取組むことはなかったので、唯一良かったことだなぁと思います。
ケンタさんの調子は大分楽にはなってきていて、子どもたちと散歩できるくらいになりました。

秋に、菜種を播きました。春、菜の花が咲く頃には、ケンタさんが良くなっていると良いなぁと願いを込めて・・・。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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