フットハットがゆく【341】「猪猟2」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2022年5月1日号の掲載記事です。
猪猟2
2月20日にイノシシを撃った話の続きです。
3発の弾を撃ち込んでついに絶命しました。立派な牙を持ったオスでした。
イノシシの牙は上顎の牙も下顎の牙も両方上を向いています。お互いに擦れて研がれて、短剣のように鋭くなっています。
実物を間近に見ると、背筋が寒くなりました。イノシシの牙にかけられて猟犬が死んだり、人が亡くなる事故もたまに起こります。
いつか僕自身もこの牙にかけられて死ぬことがあるかもしれない、と思うと、狩猟というものは狩る方も狩られる方も命がけであると、心から思いました。
その牙にロープをかけて、猟隊数人で谷からふもとまで引きずり下ろしました。
いったん軽トラに乗せて、小川のある森まで移動。川の水で洗いながら、解体が始まりました。
隊員10人がかりです。僕も新人ながら、ナイフを持って解体を手伝いました。
途中で色々なことが分かりました。胴体に2ヵ所、首に1ヵ所の銃痕。これは僕が撃った3発です。さらに、前足は何かが食い込んだ痕のように変形しており、これはくくり罠にかかってちぎれかけの足で逃げたのだろう、という見解。
そして体の数ヵ所に切り傷らしきものとそれが化膿した痕があり、これはオス同士のケンカで、相手の牙によりつけられた傷だろう、という…。
まさに傷だらけの戦士です。牙の傷に耐え、罠でちぎれかけた足で野山を駆け、最後は銃弾3発を食らって死にました。
彼の生き様を想像すると、涙が出る思いでした。
解体された猪肉は、集団猟に参加した猟師全員に均等に分けられます。
バラ肉、モモ肉、背肉は人気の箇所。心臓、タン(舌)、頬肉なども非常に美味ですが、今回は僕が全部いただきました。
さらにマニアックな所を食べる人もいます。若手ですが10年のキャリアがある猟師が、「キン○マは僕のもんですよ!」と言い出しました。
そしてブッツリと睾丸を切り取って袋に入れようとしましたが、ふっと僕の方を見て、「塩見さんも一つ要りますか? 刺身で食ったらうまいですよ。」と言いました。
ここで、「いえ、結構です。」と言ったら男が廃ると思ったので、「はい、ください。」と答えました。
家に帰ってまな板の上にイノシシのキン○マを乗せて、30分ほどにらめっこ。
まさか新人だからかつがれているんじゃないだろうな??…そんな時にその猟師から調理例の写メが送られて来ました。
これは本気だ…と思い、決心しました。キン○マに包丁を入れる時、自分の股間も涼しくなりました。
彼の生きている姿、解体されて皮・肉・内臓がバラバラになっていく姿、そして今の姿、それらが脳内をぐるぐる巡って、刺身を口に入れても最初は味が全く分かりませんでした。
しかし、わさび醤油で2口、3口と食べるうち、これは相当な美味であると感じ始めました。まさに珍味です。
人生52年目にして、自分で撃ったイノシシのキン○マを口にするとは思いませんでした。色んな思いで胸いっぱい、腹いっぱいになり、その晩はそれ以外のものを口にできませんでした。
※現在、野生動物の生食は推奨されていません。生食は猟師の自己責任で行っています。
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