フットハットがゆく【249】「テレビの嘘、本当」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【249】「テレビの嘘、本当」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2014年8月1日号の掲載記事です。

 

テレビの嘘、本当

テレビ番組でよくある風景…。
食べ物を小道具として雑な使い方をして、視聴者から『食べ物を粗末にしていて不愉快…』という苦情が入ることを恐れて、テロップで『※このあと、食材はスタッフが美味しくいただきました』と入れる。
よく見るシーンですが、実際にスタッフは食べているのでしょうか?こっそり捨てているのでしょうか?

テレビの撮影をしていて、そういうシーンに僕自身、遭遇しました。
映画館のCMを作っていて、「映画館での禁止事項」を、撮影しました。
禁煙、携帯禁止、撮影禁止、などの項目に続いて、『持ち込み飲食禁止』という項目を撮影しました。
デフォルメしてわかりやすくするために、観客がスイカを食べたり、どんぶりのウドンをすすったり、鉄板でスパゲッティ・ナポリタンを焼いてしまう、というシーンを撮影しました。

撮影は順調に進み無事終了! …後に残ったのは、俳優が志村ケンばりにむさぼりついて歯形の残った食べかけのスイカと、ちぎれてモロモロのボロボロになってツユの中にみだらに浮かぶ食べかけのウドンと、鉄板でこねくり回されて具材も麺もゴテゴテに混ざり合って赤い粘土のような塊になったスパゲッティ・ナポリタンです。
僕の頭の中では二人の自分がささやきました。
「捨てましょう。しょせん、小道具です。使い終わったら捨てましょう…」
「食べ物を粗末にするなかれ。粗末にして罰が当たって、CMがこけたらどないする…」

捨てることは本当に簡単だったのですが、とりあえず、全部まとめて持って帰り、自宅の冷蔵庫に入れておきました。
酒をかっくらって、酔った勢いで全部食ってやろうと思いましたが、それも逃げだな、と思って翌日ちゃんと調理し直すことにしました。
まず、粘土状態のスパゲッティ・ナポリタン…。
スーパーで買った、一番高いオリーブオイルをフライパンに敷き、追加購入したソーセージと、フレッシュなトマトの切り身をいためます。
ええ頃合いでスパゲッティを投入、さらにオリーブオイルを投入しうまくほぐしつつ、揚げる感じでいため、バルサミコ酢で味を整え、黒コショウとタバスコを少々、粉チーズを最後にふって、いやいや、ぜんぜん、粘土のような過去はどこへやら、とても美味しいナポリタンとなりました!

ウドンはというと、一晩冷蔵庫に置いたらどんぶりのツユを麺が全部吸って、ただのふやけて伸びきった麺だけになりました。
ならばと、焼きウドンにしました。
ふつうなら醤油などで味付けするのですが、そこは麺の中に味が染みていますから必要なし、新鮮なキャベツとネギとチクワを加え、よくいためまして、七味をふって、美味しい焼うどんに仕上がったうえ、麺の食感がフワフワで新感覚…美味しくいただきました!

スイカの方ですが、暑い日が続いておりましたので、あえての水分をこらえてノドを渇かしまして…からの、冷え冷えのスイカに塩を一振りしてかぶりつく、もう、人の歯形など気にせず、その瑞々(みずみず)しさに恍惚(こうこつ)となりました。
このようにして、撮影で小道具に使われた食材は、そのあとスタッフが美味しくいただいたのでした。

 

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