フットハットがゆく【201】「ブラ・・・うん!?」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【201】「ブラ・・・うん!?」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2010年9月1日号の掲載記事です。

ブラ・・・うん!?

「鼻息の音を消す仕事…」、そう聞いてどんな仕事を思い浮かべますか?

…答えはテレビの音量編集の仕事です。
僕は現在、京都のテレビ番組のディレクターをしております。
ローカル局ではたまにありますが、僕の場合ディレクターに限らず、台本制作に始まり撮影から編集まで、番組制作に関わる一から十まですべての仕事をこなします。
そんな中に音量編集というものもあるのです。
セリフの音量を調整したり、BGMとのバランスを調整したりする仕事です。
とある収録日の出演者の中に、とても鼻息の強い方がおられて、その人の音声トラックは鼻息音だらけでした。
そのまま放送してしまうと視聴者も耳障りなので、パソコン編集で鼻息の鳴った部分の音量を一時的に下げるという作業を繰り返します。
普通に話している所は音量を上げて、鼻息の所は下げる。そんな作業を半日かけてしました。

見た人が感動したり、楽しんでもらえる映像作りを!そう思ってこの業界に入ったのに、黙々と鼻息音除去作業をしていると自己嫌悪に陥ります。
でも絶対に必要な仕事なんです。
料理でいえば、さやえんどうのスジを取ったり、エビの背わたを取るのに似ています。
あると非常に嫌がられますが、苦労して除去しても誰にも感謝されないという…。
悲しく地味な作業です。

本来あったものを無いようにするといえば、ブライダルのCMを作った時のことです。
キレイな女性モデルさんがサイパンの浜辺を、ウェディングドレスを着てかけて行くという映像を撮る際のこと。
ノースリーブのドレスだったのですが、そのモデルさん、肩にわりと目立つアザがあったんです。
メイクさんに苦労してもらい、ファンデーションやらなんやら塗りたくって、アザを薄くしてもらいました。
そこからさらに、光を当ててしぼりも開き気味にしてコントラストの強い映像にしてアザを消すという…悲しいテクニックでごまかしました。

モデルさんでいえば、逆に無いものをあるように見せた場合もありました。
女性下着の販促用映像を制作した時のこと。その時僕はアシスタント・ディレクターでした。
スタッフが用意していたブラジャーはバスト85cmほど。
で、それくらいのバストのモデルさんを呼んだのですが、試着してみるとブカブカ。
どう考えても80cm以下な感じ。
モデルさんがプロフィールのサバを読むというのはよくあることなんですが…ブラジャーのモデルでバストのサバを読まれたとあっては、販促映像だけに反則です。
でも新たにモデルを呼んだり、別サイズの品を用意する時間がなかったので、カメラから映らない部分、背中にタバコやら布やらはさんで、なんとなくフィットしているかのように見せました。
でもやっぱりそのブラ、「ぅん!?」と思うような違和感がありあり。
ディレクターはカンカンだし、モデルさんもふくれっツラだし、往生しました。

そういういろいろな、ブラウン管に映らない苦労を重ねながら、映像作りをしています。

ブラウン 1850〜1918 ドイツの物理学者。テレビのブラウン管を発明。

ブラウン 1850〜1918 ドイツの物理学者。テレビのブラウン管を発明。

 

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