フットハットがゆく【199】「そうや!?」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2010年7月1日号の掲載記事です。
そうや!?
「B-TRIBE TV」というストリートダンスの番組を制作しています。
毎週木曜日深夜12時からKBS京都テレビで放送しています。
番組制作は京都でおこなっていますが、大阪の高槻に実家があるので時々そちらに帰ります。
今は父親が入院しているので、午前中に父を見舞ってから阪急電車で会社に向かいます。
高槻から四条烏丸まで特急電車に乗りますが、たいがい座れないと決まっています。
今日も座れませんでした。暇だったので座席数を数えてみると、52ありまして満席、立っている人は12人でした。
計算してみると、座れる確率は81パーセントです。81パーセントの人は、残りの19パーセントの人に対し、非常に優越感に浸った眼差しを差し向けます。
そんな時、たとえ次の停車駅でふと自分の近くの席が空いても、意地でも座ってやるか!と思い立ち続けます。
そして、乗ってこられたおじいさんが、キョロキョロと席を探すそぶりを見せたので、ここ空いてますよ、と教えてあげました。
おじいさん、満面の笑顔で、ありがとうといってくれまして、僕も幸せな気持ちになりました。
四条烏丸で地下鉄に乗り替えます。
席はちらほら空いていましたが、今日はもう立っているモードになっていたので、そのまま扉付近に立っていました。
するとホームを歩いていた外国人のカップルが、僕に何かをいってきました。
最初の方はよくわかりませんでしたが、語尾がキョートステーション、だったので、イェス、イェスといって電車に乗せました。
カップルはセンキューといって、ニコニコしておりました。
さて僕はたいそうな汗かきなので、扇子を出してパタパタやっていますと、先ほどのカップルが興味深そうに僕を見ております。
僕は現在髪を伸ばしておりまして、いわゆる昔のサムライのような髪型になっています。
そのサムライもどきの男が扇子をあおいでいたので、とても日本的に見えたのかもしれません。
いうてる間に京都駅につきまして、カップルさんも降りようとしたので、持っていた扇子をあげました。
オ〜ゥ、センキュ〜ゥ!と、たいそう喜んでおりました。
100円の扇子ですが、喜んで貰えて嬉しかったです。
昔、ロンドンの地下鉄に乗って、扉際の向かいに立った青年に話しかけられました。
その青年はウイスキーのボトルを持っていて、僕に一口飲めとすすめてくれました。
僕は一口飲みました。そのあとその青年は普通に降りていきました。
そんなことを思い出しつつ、昔会ったその人も、今日会ったあの人も、もう二度と出会うことはないのだろう…と思いました。
いやまたどこかで偶然会ったとしても、二度目と気付かず初対面の様に振舞ってしまうのでしょう。
いや、でも実は逆に、過去にどこかで会った人だったのかもしれません。
さっきのカップルにしてみても、実はロンドンのウイスキー男だったのかもしれません。
席を譲ったあのおじいさんは、昔僕が迷子になった時に助けてくれた人かもしれません…。
そうや!そうに違いない!
とか空想にふけるうち、会社のある駅を乗り過ごすのでした。
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