フットハットがゆく【194】「AD麻痺2」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【194】「AD麻痺2」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2010年2月1日号の掲載記事です。

AD麻痺2

今年からローカルのテレビ番組を作ることになりました。
『B-TRIBE TV』という、ヒップホップやブレイクダンスが登場するストリートダンス番組です。
毎週木曜、夜の12時からKBS京都テレビで放送です。大阪や滋賀も映りますので興味のある方はぜひ見てください!

ということで前回、僕がテレビの世界に入った頃のAD失敗談を書いたので、その続きです。
ADとは、名前こそアシスタント・ディレクターと横文字で格好いいですが、ようは雑用・何でも係です。
新人の頃はとにかく要領が悪く、失敗することも多かったですが、ADの失敗で段取りが悪くなった、スケジュールが押した、金銭が余分にかかった、…などはまだましな方で、命に関わりがあった…というミスも少なくありませんでした。

22歳の頃、アメリカのロスにテレビバラエティの撮影に行きました。
若い女性のタレントさん2人がトップガンばりの戦闘機訓練を体験する…という趣向でした。
ディレクターの指示で、真っ赤なオープンカーをレンタルで借りまして、それを撮影に使うことになりました。
で、ADの僕が運転、ディレクターが助手席、タレントさんを後ろに乗せて、戦闘機のある空港までハイウェイを移動しました。
そのオープンカーは、ボタン一つ自動で幌屋根が開いたり閉まったりするタイプで、その時はしっかり閉まっており、いわゆる普通の車の状態でした。
後部席の1人が、「この車はオープンカーですか?」と聞いて来たので、若くてかわいいタレントさんに話しかけられて調子をこいた僕は、格好いいオープン状態を彼女たちに一刻も早く見せてあげたくなりました。
「そうなんすよ。このボタン1つでオープンカーに変身するんです!」と、ボタンをブチンと押しました。
100km以上のスピードで走る車の幌屋根が突然開いたらどうなるかというと、恐ろしい勢いの風圧を受けて一瞬で屋根が吹き飛んでしまいます。
で、その時は、屋根は吹き飛んだものの根っこの部分は引っかかったままで、ちょうど暴風を受けるヨットの帆のような形になりました。車体は激しく揺れ、車内にあったものは舞い上がって吹き飛び、女の子は絶叫、ディレクターは絶句。
これがエディー・マーフィーの映画なら、笑えるコメディアクションになるのでしょうが、僕はもう0.1秒でパニック状態になり、そんな時はとにかく車を路肩に止めようとハンドルを左に切りました。
が、そこはアメリカ、ハンドルも車線も日本と反対…つまり左に寄せたらそこは路肩側ではなく追い越し車線側なんです。
「激突」の映画に出てきそうなマンモストラックが、恐竜が吠えるような警笛を鳴らして、真横10センチほどを唸りとともに通り過ぎます。
あぁぼくはこの異国のハイウェイで、鋼鉄のマンモスに追突されて死ぬんだなぁ、と思いました。

まぁ、今こうしてエッセイを書いているということは、結局皆無事だったわけですが、その経験を糧に、もう二度と高速走行中にオープンカーの屋根は開けまい…と思っています。
というか、今のオープンカーは、自動装置が働いて走行中は開かないと思います、多分。

 

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