フットハットがゆく【192】「ホント!」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2009年12月1日号の掲載記事です。
ホント!
最近の撮影でのことです。
アマチュアのストリートダンサーを被写体にビデオ撮影していました。
10代の女の子だったのですが、まずは全身像を撮った後、「はい、次はバストショットを撮ります!」というと、彼女は「え?」といって恥ずかしそうに胸を隠しました。
おいおい、いくら僕がいかがわしいおっちゃんに見えても、いきなり女の子の胸は撮りませんて。
バストショットというのは胸部から上のショット…いわゆる胸像のことで、それが腰から上ならウエストショット、肩から上ならショルダーショット、というわけです。
ということを説明しましてなんとかバストショットを撮った後、「最後にもうちょっと寄りめのショットを撮ります」というと、その子は「は? 寄りめですか? はい…」といって、一生懸命左右の目を寄せ始めました。
今はやりの変顔ですね!って違います。
寄りめというのは、カメラと被写体の距離を今より近め、寄りめにするっていう意味です。
近めに撮ることを「寄り」、遠めに撮ることを「引き」といったりします。
いやはや、その業界で普通に使われている言葉でも、なかなか一般の人には伝わりにくいものがありますね。
『わらう』
…「笑う」を想像するでしょうが、放送業界では「不要なものをどかす、取り除く」時に使います。
カメラマンがアシスタントに、「そこの花瓶、わらって!」といったら、花瓶をカメラに移らない場所にどかせってことです。
新人のアシスタントは意味が分からず、花瓶を持ってニコッと笑ってみたりしますが、それこそ笑い者になります。
『はける』
…出演者などが画面や舞台の外に出ることです。
「上手にはける」というと、客から見て右側の舞台袖に引っ込むことです。
ほうきを持ってきて舞台を上手に掃いてもだめです。
『ケツ』
…例えば男性スタッフが女性出演者に「今日のケツは?」なんて聞いたら、すわセクハラか?なんて思うかもですが、この場合のケツはヒップのことではありません。
同じ日に2つ以上の仕事がある場合、次の仕事に間に合うための最終時間をケツというんです。
出演者にケツがある場合、それにあわせてスタッフもしっかりと収録を終わらさねばならず、そういう場合をケツカッチンといいます。
『ケツをふる』
…前でのケツとは違います。
細長いものの前方を中心点にして後方を移動させることですね。
大きな機材を二人で運ぶスタッフ、先輩が後ろを持つ新人に向かって「ケツふって」といったところ、言葉の意味が分からず実際に自分のお尻をフリフリした…、というのは有名な笑い話です。
『なめる』
…撮りたいものの手前に何かをおくことで、画面に遠近感が出ます。
例えば昔の007シリーズのポスターで、美女の長い足の間からジェームズ・ボンドが銃を構えている構図が有名ですが、あれを業界風にいうならば、「美女の股間をなめて、ボンドがたつ!」みたいな。
すみません、少し卑猥な表現になりましたが、実際にそういうんです。ホントです。
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