フットハットがゆく【163】「焼べる炭」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【163】「焼べる炭」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年8月16日号の掲載記事です。

焼べる炭

五輪まっただ中だと思いますが、皆さん観戦を楽しんでいますか?
科学万能の世の中、競技もスポーツ科学で凝り固められている感がある。
でも、石炭を焼(く)べて前進する蒸気機関車のように、無骨で不器用でもいいからアスリートの人間力勝負が見たいナ。
ところで、実はこの原稿の締切日は五輪開幕前…、ということで観戦ネタはまたにして…今回はおっちょこちょいアスリート集…。

中学の頃のスイミングスクールにSくんがいた。
競技会で100mバタフライに出場した彼は、スタートと同時に猛烈な勢いで泳ぎ、ダントツのトップで50mまで泳いだ。
しかしそこでパタッと止まってしまい、水から顔を上げて肩で息をしながら掲示板を眺めていた。
コーチが慌ててSくんに駆け寄り、「おい、あと50m!」と叫んだ。
「え?」と、Sくん。なんと100mと50mを間違えていたのだ。
ペース配分なしに50mを猛ダッシュした彼の残りの50mは、溺れているのかと思うほど悲惨な泳ぎであった。
もちろんダントツのビリ…。

中学の頃のサッカー部にPくんがいた。
彼はバックスであったが、興奮すると頭に血が上り、イノシシのように相手ゴールに突進していく癖があった。
前半戦、一進一退の激戦の末、後半に突入。
興奮したPくんは、もの凄い形相でボールをゴールに蹴り込み、「ウォーッ!!」と歓喜の雄叫びを上げた。
しかし、まわりの敵も味方も目が点…なんと彼は自陣のゴールに蹴り込んだのだ。
ハーフタイムでサイドチェンジしたにもかかわらず、興奮していたPくんは前半と同じゴールを攻撃してしまったのである。
頼むでホンマ…。

高校の頃のラグビー部にOくんがいた。
彼は運動神経抜群の選手だったが、頭はあまりよくなかった。
とある雨中の試合、ボールを持ったOくんは、タックルに来た敵を引きずりながらライン際に倒れ込み、「トライッ!」と絶叫した。
ラグビーではトライを決めた時、大声でアピールするのである。
しかし審判は冷静にいった。
「そこは22mラインや」…
そう、Oくんはゴールラインより22mも手前にあるラインに「トライ」したのである。
当然のごとく得点は認められず、敵の失笑をかうばかりであった…。

高校の頃の野球部にRくんがいた。
僕はラグビー部だったが、よく野球部の応援にいった。
とある大会の1回戦で、終盤までもつれにもつれた試合となった。
1アウト3塁、勝ち越しのチャンスでバッターボックスのRくんはスクイズを試みた。
低めに来た球はバットに当たったあと地面に跳ね返り、彼のアゴを下から直撃した。悶絶して倒れるRくん…なんとそこで審判はデッドボールの判定を出した。
当然、敵チームはクレームをつけ、てんやわんやの大騒ぎ…1回戦とはいえ、審判さん頼みますよ…。

他にも、競泳の背泳ぎで壁に頭をぶつけて失神したTくんや、卓球のラケットをかじっていて歯が折れたSくんなど、おっちょこちょいアスリートは数知れず…。
参加することに意義があるとはいっても、やっぱ、ちゃんとするとこはちゃんとしよ!(笑)

ちなみにS.P.O.R.T.Sくんのうち、一人は僕自身です…。

クーベルタン 1863~1937 フランスの教育者。近代オリンピックの創立者。

クーベルタン 1863~1937 フランスの教育者。近代オリンピックの創立者。

 

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