フットハットがゆく【157】「見入る芸術」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【157】「見入る芸術」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年5月16日号の掲載記事です。

見入る芸術

最近、両親にパソコンを教える機会が多いのだが、説明がうまく伝わらず苦労している。
僕がパソコンを使うと、まるで芸術でも見入るかのように感心してくれるし、「便利で簡単」と感嘆するのだが、実際に自分でやってみると、一度教えたことがなかなか出来ない…。
やはり慣れというか、感覚がついてこないのである。

両親を見ていて思い出す…。
僕は十数年前、アルバイトでパソコン教室の講師助手をしたことがあった。
僕が担当したのは初心者クラスで、生徒のほとんどがかなり年配の方々であった。
そこではまず、マウスの使い方を説明するのに苦労した。

「マウスを使って画面上のポインタを動かします」と説明すると、生徒さんの一人はマウスを直接画面にあてて一生懸命にごしごしやっていた。
「いえ、そうではなくてマウスはパッドの上で動かしてください」といって、しばらくすると、「すみません先生、パッドが足りません!」との声。
ポインタを画面最下部に持ってきたかったのに、その前にマウスがパッドの端っこに来てしまい、困っていたのである。
隣の生徒さんは、パッドの先に自分の左手をあてがい、その上にマウスを引きずってポインタを下へと動かしていた…。
「そのようにしなくても、マウスをパッドの上で何度も動かし直せばポインタは下がります!」
すると今度は別の席から、「先生、このマウス壊れています。上に動かしたら下に、右に動かしたら左にポインタが動きます!」
「それはマウスの持ち方が前後逆です!」
また、マウスを裏返して使っている人もいた。今と違って昔のマウスはボールのようなものが入っていて、それを転がす仕組みになっていた。
そのボールを直に指で回しながら、ジョグシャトルのように使っていたのである…。
他にも、「左利き用のマウスはないんですか?」「手首が疲れるので、マウス以外のものを使いたいんですけど…」「マウスというネーミングが気持ち悪い…」というネズミ嫌いのおばあちゃんまでいて、まぁマウスの説明だけで1時間が過ぎるという感じであった。

『マウス』でこれだけ苦労するのだから、その後に登場する『クリック』『ダブルクリック』『ドラッグ』そして『コピー』『ペースト』といったパソコンの基本概念を説明するのにどれくらい苦労したか、容易に想像できるであろう…。

「どんなに時間をかけて作ったデータでも、保存しなければ消えてしまいますから、しっかり保存しましょう!」というと、100%帰ってくる言葉…
「すみません、どこに保存したか分からなくなりました…」
中には、データを消去する『ゴミ箱機能』というものがすごく気に入って、なんでもかんでもゴミ箱に入れて消してしまうというおじいさんもいた。
システムファイルまで捨ててしまったので、
「見境なしに捨てたらダメですやん!」というと、
「わし、キレイ好きやねん。パソコンの中もスッキリしとる方がええ…」
んなこといわれてもね~…。

 

ビル・ゲイツ 1955~ 誰もが知る米の実業家。『マイクロソフト社』の創業者でもある。

ビル・ゲイツ 1955~ 誰もが知る米の実業家。『マイクロソフト社』の創業者でもある。

 

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