フットハットがゆく【143】「代走芸」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【143】「代走芸」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年10月16日号の掲載記事です。

代走芸

もう一月以上前になるが、大阪で行われた世界陸上を見に行ってきた(9月1日土曜日)。
「地球上でこの人たちより速く走れる者は現時点では存在しない!」という人々との出会いは、驚きと興奮の連続であり、彼らの鍛えられた肉体を見ることは、スポーツ観賞というより芸術鑑賞に近い感動があった。

生で見ていて感じたのが「陸上界に新しい波が来ているのかな?」である。
というのも、短距離走で優勝する選手がみなびっくりするほどスマートで細いのだ。
その筆頭がタイソン・ゲイ(100m、200m、4×100m優勝)、ジェレミー・ウォリナー(400m、4×400m優勝)、アリソン・フェリックス(女子200m、4×100m、4×400m優勝)である。
いずれの選手も中距離選手のような細身で、素人目にはひ弱そうに見えるのだが、それでも勝ってしまうのである。
体格に劣る我々日本人としては、これらの新世代選手の活躍はとても嬉しく思う。

かつて、カール・ルイスがベン・ジョンソンに破れて以来(1988年ソウル五輪)、陸上短距離界はパワー重視の時代となった。
もちろんベン・ジョンソンはドーピングでの筋肉増強が発覚するわけだが、その後陸上界のテーマは『いかにバレないようにドーピングするか…』となった。
他人の尿とすり替えたり、反応が出にくくなる別の薬を飲んだり、検査員を買収したり…隠ぺい工作は様々である。

元プロ野球選手で現タレント兼スポーツコメンテーターの某氏がTV番組でいっていた。
その人は現役引退後、実際に自らが実験台となりドーピングしてみたそうである。
すると、自分が限界と感じていた数値の10%上の世界に行けるらしい。
つまり、これまでどんなに血のにじむような努力をしても100㎏のバーベルを持ち上げるのが限界だった選手が、ドーピングにより110㎏持ち上げられるようになるのである。
100分の1秒を争う短距離界の選手がドーピングに走ってしまう気持ちも分からなくもない。
が、やはり薬物によって造られた肉体は、ロボットであり人間ではない。
人間の代わりにロボットが代走している芸など見たくない…。

つい先日、ふとした手紙がきっかけで今頃ドーピングが発覚したM・ジョーンズの例もある。
かつての女子スーパースター選手で、美人で爽やか、日本の大手企業のCMにも度々出演していた選手である。
また、ソウル五輪の金メダリスト、F・ジョイナーも、たびたびドーピン疑惑をかけられながらも、1998年に38歳の若さで心臓発作により他界してしまった。
彼女の記録が現在も世界記録として遺されているところに、陸上界の矛盾が残されている。

こういったドーピング疑惑、発覚選手に共通していえることは、「筋骨隆々」である。
そして今回の大阪陸上の短距離覇者はみな、「細身」の選手であった。
「細くて質の良い筋肉を造る新薬が開発された!」という邪推もあるかもしれないが、僕としては、「薬物を捨てた本来のアスリートの姿が戻った!」と信じたい。
野球でいうならば、バリー・ボンズのようにパワーで場外に飛ばすバッティングから、イチローのような細身から技術でヒットを打つ者の時代に戻った、ということである。

 

タイソン・ゲイ 1982~

タイソン・ゲイ 1982~

 

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