フットハットがゆく【138】「我が理、もったいない」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年8月1日号の掲載記事です。
我が理、もったいない
体を壊したりしてから、しばらく仕事を休んでいる。
毎月の収入がゼロになるわけだから大変だ。
最近の僕は、とにかく生活費を安く上げるために必死である。
そこで実行しているのが、「使い切り作戦」である。
とにかく何でも最後まで使い切って、それがなくなれば代用のものを探し、それがなくなって初めて買う…という作戦だ。
調味料
…僕は独身一人暮らしだが、外食したら高くつくので95%以上自炊である。
そして調味料の使い切り作戦に出た結果、うちの家には塩と砂糖とこしょうしかなくなった。
しょうゆ、ソース、ケチャップ、マヨネーズなどはありません。
味噌も酢もみりんも、からしもわさびも、い~っさいなし。こ
こまで来たらある意味気持ちいい。
さて、肉類は高いので、安くて腹にたまる野菜、ジャガイモやタマネギといったものを買っては、塩で味付けして食べる。
塩焼き、塩スープ、塩サラダ、塩、塩、塩…。
まぁ塩で食べると素材の味がよく分かるというけれど、もともと調理の知識と素質に乏しい上、安い野菜を買ってきているので、当然、あまり美味しいものはできない。
そんな塩だけの調味料で10日ほどたったある日、ど~にもこ~にもケチャップ味のものが食べたくなったので、スーパーでケチャップを買ってきて、イモフライにかけて食べた。
…食欲をそそる色、トロッとした舌触り、この風味、この酸味、…「あ〜ケチャップを発明した人は天才だ!」と、僕は一人感嘆の声を上げながらイモを食べた。
このケチャップを使い切れば、今度はソースかしょうゆを買いたい。
そのとき僕はまた別の天才に感謝することになるだろう…。
シャンプー
…シャンプーがなくなっても買わない。
石けんでも髪は洗える。
そして石けんがなくなったら…水洗いで充分、充分!
そうやって何日かが過ぎ、久々に実家に帰った時に、これも久々にシャンプーを使ってみた。
そして、「あ〜シャンプーの香りって、幸せの香りなんだ…」と思った。
まるで貴族にでもなったかのような優雅な気持ちにしてくれるシャンプー…。
ティッシュ
…ティッシュがなくなれば、キッチンペーパーやトイレットペーパーで代用する。
しかしそれらもなくなれば、新聞紙を揉んで柔らかくして代用する。
ひと昔前の人は新聞紙で鼻をかんだり、お尻を拭いたりしていたと聞くので、僕にだって出来るはず。
そうやって何日かたったある日、スーパーでティッシュの特売をしていたので、思わず買ってしまった。
そして久々に使ってみて思った。「あ~まるで天女の衣のようだ!」。
頬ずりしたくなるようなその感触に感動した。
現代の日本はものがあふれかえっているが、このように「無い状況」を経験すると、有ることのありがたみが分かるので、お薦めである。
仮に今後いろいろふんだんに買える状況になったとしても、ワンガリ・マータイさんに賛同して、我が理を「もったいない」としていきたいと思う、今日この頃であった。
田舎暮らし公開中! YouTube『塩見多一郎』で検索!
MK新聞について
「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。
ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。