自給自足の山里から【179】「抗して生きる強き百姓」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【179】「抗して生きる強き百姓」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

抗して生きる強き百姓

里森を循環する落ち葉

木枯らしが吹く。パラパラと落ち葉がお山に舞う。その中に、身を置く。そこはかとなく、かなしさ。大地を赤、黄色の枯れ葉が覆う。年中水の貯まる田んぼに映える山間の風景に、舞い落ちて彩りを与える落ち葉。
息子のケンタ(くまたろ農園)、げん(あさって農園工房)は、毎日落ち葉を集める。大変な作業である。堆肥にする。おいしいお米、野菜が生まれる。
「里森を循環する落ち葉、堆肥の恵み。成田国際空港が飲み込んだ地に寄り添い、有機農業の豊かな世界を探求し続ける」小泉英政さんから『土に生きる』(2013年9月発行・岩波新書)が送られてくる。息子らへの励ましに感謝である。
木枯らしとともに落ち葉が舞う中、ヨキ(オノ)を手に薪(まき)割りに追われる。
春先に切り倒し、輪切りにしておいた丸太を、ひとつひとつ割っていく。スパッと、ひと振りで割れると気分よいが、節などあって、なかなか思うようにいかないと、疲れる。
部屋を暖め、煮物つくる薪ストーブ、ご飯炊くかまど、五右衛門風呂などに思いを寄せ、ヨキを振る。家周りに、積み上げられた薪棚があっちこっちに生まれる。
来訪の「百姓体験居候」の若者は、ヨキに振り回され、腰定まらず。なんとも頼りない。つい、見かねて「手先でなく、からだを使って」と実際を示す。まだ、都会からの若者たちには、負けない(笑)。
夕暮れ早く、百姓は夜なべ仕事に追われる。柿の皮むいて干し柿づくり。家の前には干し柿スダレ。足踏み脱穀機と唐箕(とうみ)で選別した春豆・大豆・黒豆などを、さらに手でより分ける。
フクシマで百姓していて、今、ヒナンしている佐藤さんから「今は、核シェルター暮らしである」とのいたたまれない便り。本来なら、落ち葉集め、堆肥作り、薪割りし、夜なべに精を出す暮らしに思いをはせ、悔しさと怒りである。

時の止まった町

原発事故から2年半、1000日過ぎた頃、フクシマを訪れた人の報告である。
「第一原発から30㎞圏内の広野町は、“除染が終わった町”といわれ、役場戻っているが、戻っている人は2割。住んでいる人のほとんどは原発労働者3000人で、その人たちのアパートとコンビニの町である。
20㎞圏内の楢葉町は、いたるところに黒い袋がぎっしり並ぶ風景。Jヴィレッジの芝生には、原発労働者用の工事用の車など。
10㎞圏内の富岡町は、特急も停まっていた駅の付近は誰も住んでいない。放射線量高く、除染なく、雑草は人の背丈以上。店の時計は、2時40分。全く「時の止まった町である」(はとぽっぽ通信196号)。

「朝ズバッ!」で取材、放映―親子3代の幸せ

今、テレビに大学生の人気なく、就職希望200社のうち、フジ73位、日本テレビ85位、TV朝日136位という。そんなテレビから取材。11月21日(木)TBSの「朝ズバッ!」(あのみのもんたの番組)である。
キャスターの岡安弥生さんが、韓国の新聞に紹介されたあ~す農場の記事を見て、13年ぶりに訪ねたいとの希望による。
「貯金0! 仰天生活! 半自給自足生活」との見出しが映し出され、岡安さんが「親子3代にわたって0円でも幸せなあ~す農場・大森さん」と再会。以下の展開。
「大森さんは、人から真の教育者といわれていて、自然、百姓の中、6人の子ども育て、長男・次男は結婚し、同じ村で父の道を受け継いで歩む」と。
次男げんの家を訪れ、「あさって農園工房って?」に、「基本的に、実家あ~す農場と同じベースだが、そこから一歩踏み込んだこと目指す」と。今も石釜で天然酵母パンを焼いているげんのパンを「おいしい」と食べる岡安さん!
長男ケンタ家を訪れる。ケンタは、「百姓は忙しく大変だけど、幸せ」と笑顔。
13年前の豚・人糞でのバイオガスが、今も炎出すのに感動し、8年前つくった水力発電も紹介される。これまで1000人以上の来訪者があるとも紹介され、「百姓のいいところは?」と聞かれて、「自立! 来訪の若者たち、病んでいる人多いが、百姓ほど強い者はない。失敗しても、それが糧になる」と。
最後に、「これからの目標は?」と聞かれ、かのゲバラの「第2、第3のヴェトナムを!」ではないが、「日本に、世界に、第2、第3のあ~す農場を!」としゃべる。

百姓は、官僚に殺され

縄文の志を持つ百姓の71歳の私が、若者たちに“希望”“幸せ”をもたらせていることに、少なからず関心があるようである。
近くの高校で、この5年間、年に一度、講師として「自給自足の暮らし」を話す。若者の目の輝き、笑顔がうれしい。
あ~す農場の隣で、放置された杉桧(ひのき)林を切り、整地し、ケンタ・げんらの支援で、本来の木組み工法で、家を、俊君(30歳)がつくる。来春には、自然養豚、百姓を始める。
明治・江戸以来、官僚によって、百姓は殺され続けてきた。今や、百姓は絶滅種に。そして、秘密法である。すぐ歓迎のアメリカ。
官僚に抗しての縄文百姓を期する。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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