エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【344】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2016年12月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
「意外」(?)な結果のアメリカ大統領選挙。
その行方は世界への影響が大きいとはいえ、長丁場の選挙期間中、くせ者ご両人のわざとらしい行動やバカげた発言をなぜこの日本で逐一知らされる必要があるのかと思いながら、連日のニュース番組を眺めていた。
それぞれの候補が当選した場合に必要な政策や外交、人脈などに関する情報を集約して、要は結果がわかればそれでいいように思うのだが、どうだろうか。
ともかく、あまり上品とは言えない他所様のパーティはようやく終わった。
この場で私が政治的な考えを述べるつもりは全くないのだが、一言だけ感想がある。
それは、「あ、この結果がアメリカの本音なんだ」ということ。
トランプ氏の差別的、排他的、自己中心的な発言、過去のハレンチな行動に対して、批判……というか、アホらしくてお話にならないという感じで半笑いしながらカメラの前でコメントする“知的そうな”メディア関係者の方が、少なくともテレビでは“感情的な”街頭の一般トランプ支持者よりも印象的な扱いで画面に登場していたようだが、いざフタを開けてみると、偉大なアメリカ国民(とのアイデンティティを持つ人びと)は「差別的、排他的、自己中心的」な自分たちと同じ彼を大統領に選んでいた。
ところで、例えば国の何かの施設が建設されることになったとき、建設地住民の反対運動が盛り上がっているとの報道がなされることがある。
マスコミの「公平性」なのか、賛成派と反対派、双方の主張を半分ずつ報道し、いや民主主義における少数派あるいは弱者である反対派を“感動的に”丁寧に取材し(それとも、「国家権力に対する報道の監視姿勢を示す」というパフォーマンス?)、テレビの中では反対派が優勢かのような印象をもたらすことがある。
が、住民投票や選挙が行われると結果は8対2で建設賛成派が圧勝。
遠い他の地域に住む、建設問題に無関心な国民は「結局、賛成じゃないか」なんてことがよくある。
ただ、“本音”というのもそう単純ではない。
「本当の本音」は反対だが現実の生活を考えると今は賛成するしかない……とか。
「本音は賛成だが建前では反対」という振る舞いこそ実は自らに対する裏切りであり、小さな個人に無意識にせよこんな葛藤をじわじわと堆積させてゆく社会はキツイ。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)