エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【335】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【335】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2016年3月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

『新世紀ビジュアル大辞典』(学習研究社)は一冊本のカラー百科事典で、写真や図版が豊富なのが特徴。
私のは第一版で、三千ページほどに約一万二千点が収録されている。
パラパラとページをめくって、眺めているだけで楽しい。

ある日、「親子丼」の項に目が留まった。
解説は、①が「とり肉をタマネギ・ミツバなどとともにだし汁……などで煮て、ほぐした卵を入れて半熟状にし……どんぶり飯のうえにかけたもの」(……は略)。
そして、びっくりしたのが②。
「母親とその娘、または父親とその息子の両方に肉体関係をもつこと」と記している。「性俗語辞典」や「隠語辞典」でなく、こんな一般的な辞書に載っているのかと興味を持ったのだ。
③として「〔俗〕競馬で、同じ厩舎・馬主の馬が1・2着になること」という意味も載せている(競馬をやらないので勉強になりました。この辞書、攻めるなぁ)。
③には「俗語」の略号がついている。ということは、②は辞典の編集者にとって、巷で一般的な「親子丼」の使い方という認識なのか。

『新世紀ビジュアル大辞典』(一九九八年刊)の前身『新世紀百科辞典』増補改訂(七八年刊)を引いてみたが、②③の意味は記していなかった。「親子丼」なんてゲスなおっさん言葉、むしろ六〇~七〇年代の大衆小説の方がよく使っていた気もするが。
その後の二十年で、②の意味が辞書に採用されるほど定着したともとれるし、逆にこの言葉が使われなくなったから、意味がわからない人のために辞書に載せられるようになったともとれる。
実は念のために他の辞書も引いてみたのだが、『大辞林』第一版と『大辞泉』第一版にも②の意味は記されていた。

世に性的な俗語、隠語は多いが、一般的な辞書に収録されている語はそれほど多くない。「親子丼」は、よほど辞書編集者好みの“言語センス”なのだろう(笑)。
社会の鏡ではなく鑑でありたいのか、『広辞苑』第六版に②の意味は載っていない。
一方で、『精選版日本国語大辞典』電子辞書二〇〇六年版には②の意味はもちろん、著名作家の戦前の用例も掲出。さらに類語として「芋田楽」を挙げる。
「親子の間柄で情交すること……婿養子が養母と通じることを風刺する場合が多い」として、雑俳の文献から用例を引く。
さすが日国。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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